短編小説1

□星砂
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みんなおんなじ。

ベージュ色の砂の上を動き回る、日本人お決まりの黒髪の頭。
みんな同じ、紺色の体操服。

みんな、おんなじ。

ベージュ色。
散らばる黒色。

小さい頃に潰して回った、蟻の行列を思い出した。

「……きもちわるい、」
「…………そうか」
「気持ち悪いよ、先生。気持ち悪い、」
「…………そうか」
「気持ち悪い、みんなおんなじなんだもの。気持ち悪い、気持ち悪い」

みんなおんなじ。
誰でもおんなじ。

みんな一緒。
誰でも一緒。

その他大勢。

『代わりなんていくらでも居る』

小さい頃にバレエの先生から言われ続けた言葉を、今更思い出した。

……きもちわるい。

「先生は……、もし、もしもね、」
「…………」
「私がみんなと同じで、今も校庭に居る子達と同じだったとしても、私を見つけてくれた?」

酷い吐き気を感じながら見下ろした自らの服の袖は、みんなと違う桃色。

制服でも。
体操服でも無い。

ただの、セーター。

みんなと同じは嫌だった。
その他大勢は嫌だった。

制服を身に付けない私は酷く悪目立ちしたし、生徒指導の先生にも叱られる。

でも。

奏一朗先生に出会えた。

私は姿だけでもみんなと違う“モノ”だったから、先生に見付けてもらえた。

なら。

もし、私がみんなと同じだったら?

星の数程居る他の人間と。
他のみんなと私が一緒だったら。

それでも。

「先生は、私を見つけてくれた?」
「……分からない」
「うん、それは仕方ないよね」

絶対に先生は嘘を吐かない。

それが正解だとしても、不正解だとしても。

先生は絶対に、嘘を吐かない。

「…………でも、」

めったに自分からは口を開かない先生。

そんな先生の声が聞こえて。
私は、ゆっくりと顔を上げた。

「私はお前を見つけるよ」
「…………うそだ」
「見つけるまで、探してやるさ」
「……うそばっかり」
「私は嘘を吐かないよ」

……うん、知ってる。

知ってるよ。

いつも授業をサボるたび、どうして生徒指導の先生じゃなくて奏一朗先生が探しに来るのかも。
いつも私を無理やり授業へと返さない理由も。

本当は、知ってるの。

知ってる。

知ってる、けど。

知らないふりをしていたの。
知らない、って嘘を吐いてたの。

「…………千鶴、」
「……は、い」
「嫌なことでも、あったか」
「…………っ、は、い、」

ありがとう。
ありがとう。

見つけてくれて。

ありがとう。























END.



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