戴きもの

□あたしのキスは代用品
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どうせ、私は代わりのオンナ。


『あたしのキスは代用品』


「好き、だよ。」
「知ってる。」

このやり取りを、今までに何度続けただろう。数え切れない。

「キス。」
「はいはい。」

これも。

「シよっか。」
「……。」

これも。

何も言わず、無表情で私の身体に触れる彼は、私を見ているけれど、見ていない。気付いたのは、彼がいつも持っている物を見て、だ。

いつも財布からはみ出していた白い物が気になって、彼が居ない隙に見たとき―――驚きとショックで固まってしまった。


その白い物は――私に良く似た、女の人の写真だった。


大切に半分にして持ち歩いていて、端の方が皺になっているそれの存在は随分前から知っていた。

でもまさか、写真だったなんて。しかも、自分に似た女のだなんて信じられなかった。激しい嫉妬と悲しみが押し寄せた。

そしてこのときだ、確信したのは。
自分は、重ねられているだけで、ただの代わりでしかないのだと。
写真の女の人が大切で今でも忘れられないのだということも分かってしまった。



「ねぇ、」
「なに。」
「私のこと、っ、すき?」
「…シてる最中に聞くこと?」
「うん。」
「集中してなよ。」
「…んっ、……うん。」

集中してなよ、か。
代役をしっかりこなせっていう意味だろうか。なんて残酷。でも、間違って名前を呼ばないだけ、まだマシなのかもしれない。

尤も、名前なんて一度も呼ばれたことないんだけれど。それでも、他の人の名前が出てこないから、今はそれが唯一の救いだ。

いつかは離れなければいけないこの関係。
続けていてもお互いにプラスにはならないから本当はすぐにでもやめたほうが良いんだろうけど、なかなか嵌ったら簡単に抜け出せない訳で。

「ねぇ、」
「今度はなに。」
「私は、好きだよ。」
「……。」

返事はないけど。嘘吐かれるよりはよっぽど良い。もう少しだけ、一緒に。

もう少しだけ。




end.

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