長編小説

□あいつおまえのなんなのさ
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さて、兄から何も反応が無いんで何かけしかけますかね。

「えへッ☆」

ちょっと可愛子ぶって上目使いで見上げたら、心底イヤそうな顔をされた。

やめろよマジでヘコむから。

「俺の妹はもっと可愛かったはずだ、少なくとも一人称は『わたし』だった」
「てめぇの情報は10年ほど古いからな。幻想を抱くな、裏切られるぜ」
「そうだよな、のりぴーのことだってな……『碧いうさぎ』っつうか『碧いハッパ』だったんだもんな」

そういうある種の自虐ネタはやめとけよ……っていうか兄貴ってのりぴー世代なの!?
違うだろ!?

「それについては後日、記者会見を……」
「開いちゃうの!?」
「開かねーよ。それよりオラ、仕事しやがれ。チーズ盛り合わせとイベリコ豚」
「あーい」

指示を受けて仕事に取りかかる。

今日は木曜日ということもあって、お客が少ない。
だからこうしてくっちゃべってられるわけだが。

「湖子、お前さぁ、」
「ココって呼ぶなよ恥ずかしい」

そう、おれの名前は梓川湖子。
冗談みたいな名前だが本名だぜ。

なんだよココって。
……なんだよココって。

大事なことなので二度言ってみました。

「せっかく可愛い名前なのに」
「可愛かねぇよ」
「せっかく可愛いのに」
「うっせぇな」
「せっかく、」
「黙れ、くちの中いっぱいにイベリコ豚詰め込むぞ」
「…………」

お、なんだよ。
珍しく黙っちゃって。

「……今度お前がホールに出る時のネームプレートは『梓川湖子♀』に決定な、いま決めた」
「やめろよ!!『つんく♂』もどきみたいじゃねぇか!!」
「反論は認めねぇぞ、なんてったって僕はオンディーヌ家の一族だからね」
「いきなり何キャラだよ!!お笑いか!?てめぇは梓川家の長男でしかねぇよ!!」
「じゃあオーナーの権限」
「最初からそう言えよ!!お笑い引っ張ってくんじゃねぇよ苦手なくせに!!」
「……そうだ、お前はお笑い系で売っていけ。衣装は常に全身タイツな、白いやつ」
「なんでお前がナンバーワンなんだろうな、マジで!!」
「ビフィズス菌みたいで格好良いじゃねぇか。なんなら銀色でも良いぜ?」
「…………兄貴、これから1ヶ月は深夜番組禁止だからな」
「録画もか?」
「録画もだ。おら、出来たぜ」

そう言ってチーズとイベリコ豚の生ハムを盛り合わせた大皿を渡せば、兄貴は『人生の楽しみが無くなっちゃったよ』と呟きながら受け取った。

しょうもねぇことばっか言ってねぇで仕事しやがれ、と手を払えば兄貴はころりと表情を仕事モードに切り替え、お客を待たせているホールへと出て行く。

あーゆーところは凄いと思うね。
さすがナンバーワンだ。






 
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