長編小説

□空席恋愛
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プロローグ






心の中にポッカリと空いた穴。

心の、空席。

それを誰もが切ないと言うけれど。
べつにわたしはなんとも思わない。

なぜなら。

それがわたしにとっての“普通”だから。

わたしの大切な人が座るべき、その席は。

埋まったことが無い。
誰かが付いた、ことが無い。

ずっと。

今まで、ずっと。

ずっと、ずっと。

空席だった、その席。

それが、わたしにとっての普通だった。
これからも、そうだと思ってた。

それで良いと、思ってた。

それでも。

たまに疼く、むねのおく。

そんなとき。

わたしは決まって。
それを無視するの、だけれど。

決まって、そんな日は。

雨が、降る。

まるで。

涙を流すことを知らないわたしの代わりに、泣くかのように。

しとしと、と。

雨が、降る。





「…………香澄?」





あなたに出逢ったのは、そんな、雨の日だった。















 
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