長編小説

□彼氏彼女の常事
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『呼ばれてなくても飛び出ます』








京都は京都市東山区。
その北側、南側とは一風違う、独特のネオンや雰囲気に包まれた小さな歓楽街。

そこに、我らが『Blue Rose』は存在する。

「はぁあぁぁッ!?」

時刻は午後6時。
開店一時間前の、事務所にて。

おれ、梓川湖子♀(19)は、兄であり経営者でオーナーで売り上げナンバーワンな梓川裕哉に信じられない宣告をされていた。

「……冗談だろ」
「冗談で済ませられるなら言わねぇよ」
「えぇ、だって……えぇ?」

だって、こんなこと始めてだ。
無意識の成せる技で光成を探してみたけれど、ヤツはまだ出勤していない。

ちッ、No.2様は重役出勤か!
良い御身分だな全く!

「仕方無ぇだろ、プレイヤーが足んねぇんだから」

こっちもお手上げだ、そう言って兄貴は小さく溜め息を吐く。

「だからっておれにホスト役しろってか!?」
「べつにテーブルに付けとは言ってねぇだろ。ヘルプで入ってくれりゃあ良いの。水割りくらい作れんだろ」
「…………、」

そう、兄貴は出勤してタイムカードも押さぬままのおれに言ったのだ。

おまえ今日、ホールに出ろ、と。

普段は厨房に閉じこもって食器と仲良しなおれに!
たまに自分がベルにでもなった気分になるくらい食器と仲良しなおれに!!

ウォルデモート!
違った!ルミエール!!
おれはコグスワースより断然ルミエール派だ!!

ちなみに野獣の本名はビーストである。

おれはミウィキさんか!!

「とりあえず、そーゆーことだから」
「どーゆーことだ!ふざけんな!おれはぜってぇッに嫌だからなッ!!」
「頼むって。もうアレなんだよ、溺れる者はファラオも掴む的な」
「ナニ掴んでんだよ!藁掴めよ!!ファラオのどこ掴むんだよ!?」
「…………顎?」
「んなモン掴むな!!失礼だろ王様に向かって!!つーかてめぇは何も掴むな!!溺れてろ!!」
「頼むよ。プレイヤーが足りなくても普段通りに稼ぎたいという欲に溺れてんだよ俺は」
「最低だな!」

まぁ、ひと通り抵抗してみたものの、さすがは人の話を聞かないBlue Roseの従業員&オーナー。

気付けばおれは、プレイヤー最短身のアキラ君'S衣装を着せられていた。
アキラの身長は159cm(ちなみにハイドは156cm)で、おれには少し大きい。

くそ、袖が余る割には胸が苦しい!

そりゃそうだ。
高校時代からコンプレックスだった、無駄に成長したおれの胸部は、今やサラシと言う名の大胸筋強制ベルト(ブラじゃない!)に押し潰されているのだから。

おい、兄貴……!

「なんだよ、ザ・パンチみたいなストールしたいとか言っても駄目だからな」
「……兄貴、胸が苦しいッ!」
「駄目だ、湖子……おまえをそういう対象には見れない。母さんが泣くぞ。まぁでも仮にお前が俺を『にぃに』と呼ぶのならば考えてやらんことも、」
「ふざけんな!キモイ!押し入れでヒッキーしてろ!」
「押し入れで……宇多田ヒカル?オートマチック?」
「七回目のベルで……って古ッ!!」

つーか、無駄にアンニュイな表情で見つめてくんな!!
我が兄貴ながらときめくから!!

そんなことよりなぁッ!!

「兄貴ッ!」
「…………にぃに」
「……兄貴ッ!!」
「にぃに、」
「わぁったよ!にぃに!!」
「…………エレクトしても良いか?」
「何を勃たせる気!?」
「だって俺のエスクカリバーがラグナレクでエレクトリックパレードを」
「神様も呑気なもんだな!!」

世界の終末に光のパレードか!
てゆーかこのままじゃおれの胸部が終末を迎えちまうぜ!!


 
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