長編小説

□彼氏彼女の常事
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「兄貴ッ!むね!胸部!胸部が苦しい!」
「あぁ、おっぱい」
「おっぱいとか言うな!下ネタ禁止じゃねぇのかよ!!」
「何言ってんだよ。おっぱいは上ネタだろーが。みんなに付いてんだから。ほら、兄ちゃんにも付いてるぞ見るかー?」
「見ねぇよ!」
「頬摺りくらいならして良いぜ」
「パイズリ!?」
「こら湖子ッ!!下ネタは止めろ!!」

てめぇの基準がわっかんねぇよッ!

「おはようございまぁす」

おれと兄貴のラグナレクの続く事務所に、そんな呑気な声が響く。
とっさに振り返った先。

そこには、相も変わらず綺麗な金髪碧眼のイタリア人が立っていた。

「光成!遅ぇよ!!」
「なんですかココさんその格好……いいえ、とても素敵ですよ。あたしなんかより何万倍も素敵です……そうですね、例えるならばまるで戦場を駆け巡るアルテミスのようで、」
「じゃあアレか、俺はアポロンか」
「あぁ、ユウヤさん居たんですか。アポロンとは……大きく出ましたね。年の離れた妹と双子気取りなんて」
「あ゛ぁッ!?」
「ユウヤさん煩いです。……安心して下さい、ココさんが一番綺麗ですよ」
「良いから!そーゆーの求めてねぇから!!」
「でもほら、女性を見たら誉めないと」

イタリア人の習性とかいらないから!
求めてねぇから!!

「そんなことより兄貴ッ!!」
「……なんだよ、もう開店するぜ?今更後戻りは、」
「ちげぇよ!もう諦めた!」

そんなことよりッ!!

「このサラシなんとかしてくれッ!キツいし苦しいしッ……ぜってぇ垂れるってコレ!!」

かっちりとしたジャケットを持ち上げて、真っ平らな胸を晒せば、残念そうな顔をする兄貴とハッとする光成。

「なにか違和感があると思ったらソレですか!そうですよね、ココさんにはエイコ・コイケ級のスーパーカップが、」
「黙れミツナリ!いつも俺の湖子ばっか見てるかと思えば乳ばっか見てやがったのか!」
「誰がアナタのココさんですか!それにあたしも男ですよ!?自分に無いモノ見るのは当たり前です!!」
「……あぁ、まぁ、な」
「納得しちゃうんだ兄貴ッ!?」

普段通りにツッコむも、おれは心の奥で疼くモヤモヤに気付いていた。

昔からのコンプレックス。
高校時代の黒歴史。

……なんだよ、所詮光成もおれのそんなとこばっか見てたのか。
まぁ、目に付くから仕方無ぇけどさ。

でも。

「だぁーっ!腹立つなオッパイ星人どもがッ!!」
「自虐ネタはいけません、ココさん!」
「自虐ネタじゃねぇよ!」
「じゃあ今度揉み込ませて下さい!」
「どこから繋がった“じゃあ”だそれは!……って揉み込む!?触らせて下さいでも揉ませて下さいでも無く!?揉み込む!?」
「それくらいであたしが満足するとでもお思いですか?しかしながら行為に及ばせて下さいとは言えません。籍も入れぬままにそんなこと……」
「無駄に男らしいなテメェ!」

しばらく光成とデュエルしてみたが全く話が進まない。
くそ、おれのターンが来ないとは何事だ。

……このままじゃラチが明かねぇ。

おれは急に静かになっていた兄貴を振り返る。

「兄貴ッ!ってうわ、なにテメェ呑気にプリン食ってんだよ!つかデカっ!!プリンでかッッ!!」
「……420円のデカプリン。……そろそろ、苦しい」
「なんでそんなに自分追い詰めちまったのかなぁにぃにぃいぃぃッ!!」

もう無理だ……もう疲れた……。
もう良いよ、少しくらい胸が垂れたとしても構うもんか。

「も、良いわ……ホール出とくから」
「ホール?」

おれの言葉にきょとんと首を傾げる光成。
おー可愛いねー、じゃなくて。


 
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