十二国記:楽陽小説

□死合
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雁国関弓。

うららかな午後、楽俊は大学寮の自室にて勉学にいそしんでいた。

ふと、灰茶の耳がピンとそばだてられた。窓をたたく音がする。またか、と溜息をつくと、踏み台をよじ登って窓を開けた。


「よお!」
使令に跨った六太が、窓の外でふよふよ浮いている。
「台輔!目立ちすぎです!まだ昼ですよ。」
「いいから、早く乗れよ。陽子が来てんぞ。」
「ええッ!?」
楽俊は慌てて、ばたばたと身支度を始めた。
「?何で人型になってんだ?」
楽俊はバツが悪そうに頭を掻いた。
「いや、前に陽子に、騎射の時は人型になるっていう話をしたら、ずるいずるいって騒ぎ出したもんで・・・結局、次に会う時は人型で行くって約束させられたんです。」

六太はあきれ返った。
「あいかわらず甘々だな。」
「そ、そんなんじゃありませんよ。」
「まあ、いいから乗れって。」

玄英宮まで、しばし空の旅。楽俊は慣れたとはいえ、後の事を考えると、やはり溜息が出た。

(目立ってんなぁ。鳴賢らへの言い訳も、もういい加減ネタが尽きたよ。)





玄英宮外宮。

陽子は掌客殿の庭院で、楽俊を待っていた。使令の背から降りる楽俊を見つけるなり、満面の笑顔で駆けて来る。
「楽俊!元気だった!?」
「ああ、陽子は?」
「元気だよ。もうすぐ卒業だね。首席だって聞いたよ。おめでとう!」
「ありがとう・・・でも何だ?その格好は。」

陽子は、ごく軽い皮甲を身に纏い、水偶刀を手にしていた。返答の代わりに不敵に笑うと、陽子は中庭の中央に戻っていった。

その先には延王が、防具こそ着けていないが、やはり剣をぶらつかせて立っている。楽俊は何だか嫌な感じがした。
「・・・一体、何が始まるんですか。」
六太が面倒臭そうに、右手を上げた。

「はーい、では楽俊仕官先争奪試合、始めェ。」

「はあ!?」
楽俊は、口をあんぐりと開けた。

「ちょ・・・ッ、あれ真剣じゃないですか!?」
「うん、だから俺は退散するわ。障りがあるんでな。」
六太は、ひとりでさっさと回廊を歩いていってしまった。

楽俊が大声で叫んだ。
「陽子!延王も!馬鹿な真似は止めて下さい!」

延王は笑って剣を抜いた。
「賞品は黙ってそこで見ていろ!」
陽子も水偶刀をすらりと抜き放った。二王の声が和する。

『楽俊に主上と呼ばれるのは、この・・』
「俺だ!」
「私だ!」

(何で、こんな事に!?)
楽俊は頭を抱えた。


二王はじりじりと間合いを計りつつ、円を描くように移動していく。陽子は延王をひたと見据えた。

「楽俊がうちに来るのは、ずっと前からの約束なんです。だから楽俊の卒業に合わせて、半獣も仕官出来る様、法改正したのに!」

延王は、ふふんと笑った。
「そう簡単に主席を渡せるか。安心しろ、うちでたたき上げて一流の官吏に育ててから、そちらに渡してやる。」
「それなら、慶からの派遣、という形をとらせて下さい。」
「それでは、こき使えんだろうが!」
「あー!やっぱりこき使うつもりだったんですね!?」
「当たり前だ!」

剣のぶつかり合う音が、王宮にこだました。
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