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□臆病
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……………。
だって、不味そうではないか。
肉という肉もぜんぜんついていないし、
それに、目の色が悪い。
あんな濁った色した眼球だ。きっと腐り始めているに違いない。
それに、それに、私は美食家なんでな、そこら辺に落ちていた人間の子供なんぞ食う気も起きない。
それに…。
今は、腹が減ってない。
「おじちゃん、まだ僕を食べないの?」
なのに、こいつは無神経な質問を何度となく俺に投げかけてくる。
「僕もう死んでいいんだよ。父さんも母さんも病気で死んじゃったし。それに…」
「なにか、食べるか?人間。」
「あ、うん!」
死んでもいいと言うわりには、食事の事になるとたちまち嬉しそうに笑う。
確かこの人間のガキを拾ってきたのは、4日前。
飢えて倒れていた所を見つけたはいいが、あまりに不味そうだったので、とりあえず、太らす事にした。
太らして、太らして、食べ頃になったところに、食べてやろうと思って。
しかし、どうしたことか日が経つごとに腹のすきがなくなってしまった。
まだ、奴はガリガリだからかもしれない。
この人間のガキにあってから、都合良く食料にありつけているからかもしれない。
だから、まだ食べない。
「へへっ、美味しいや。」
「そうか、もっと食え。」
もっともっと、肉をつけろ。
それから、何日か何週間かたった。
今朝は、魚とりんごを食べた。
味付けこそなかったが、それでも焼きたての魚は最高だった。
立ち上がるニオイはとても香ばしくて、噛めば脂がジュッと出てきて…勿論、苦い内臓も骨も体にいいので食べた。
りんごも、まだ少し早かったみたいだが、それでも十分に食べれるものだった。
満足、満足。
さて、次は此をどうしようか。
目の前にあるのは、
衰弱したあの人間のガキ。
見れば、何時かに転んだ時につけた傷が化膿して変色している。
呼吸は短くて細いし、熱もある。何より飯を食わない。
この状態が5日以上続いている。
私には詳しい人間の病気の知識などない。
ただ、こいつもうすぐ死ぬなっていうことぐらいはわかった。
だから、だから何だと言う。
何だと言うのだ。
「なにか、欲しいものはあるか?」
「…ない。」
「何でもいいんだぞ。遠慮せずに言え。」
「僕を、食べてよ。」
「…懲りない奴だな、お前は。何度も言ってるだろう?私は…」
「美食家だから、食べないでしょ?でもおじさんは、地面に落ちている果物も、平気で食べてるよね。」
「…それは、時には自然の味をだな。」
「ねぇ、僕を食べて」
「最後まで話を聞きなさい」
「苦しいんだ。お母さんと、お父さんが死んだ時よりもっと、生きるのが苦しい。
ねぇおじさん、僕を、食べて、助けて」
か細く弱った声をゆっくりと聴きひろっていく。
わざわざ人里まで連れて治療を受けさせようなどとは思わない。
面倒だし。
そうだ、面倒なんだ。
なぜ私が人間如きにそこまでせねばならない。
それに、それに私が街を出れば人間は私を恐れ逃げていたのに、最近は生意気にも武器を構えてくるからな。
私がガキと連れ添ってきたら、人間共はガキを助けないだろう。
捨てられた子供に餌をやる余裕もない人間共だ、きっと…
「おじ…さん」
「お前はまだ食べ頃ではない。」
だから、食べてやらない。