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□スミレの森
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まだ青い木の葉を通り抜けた朝日が、眠っている女の顔をヌラリと照らしていた。次第に日が高くなり明るくなると女はゆっくりと目を開き、欠伸を1つした。
銀色の蜘蛛の糸で出来たベッドから下り、毎朝小鼠が近くの小川から運んで来てくれる水を瓶からくみ顔を洗えば、水は温く軟らかい。
巨木に穴を開けて作ったすみかから出て辺りを散策すれば、朝露を抱いた新芽があちらこちらに姿を表していた。
そして何時もの肌寒さがないことに気付き、女は一人呟く。
「春…か」
森に春が来たようだった。
ついこの前まで森中が冷たく死んだようだったのに、どれだけ振りだろう春が来た。
「なんとも、なんともお早いお目覚めですね。」
足元から聞こえる声を辿れば給水係りの小鼠が両手に桶を引きずりながらこちらを見上げていた。
「おはよう、給水鼠。暖かくて目が覚めてしまったのだ。春とは懐かしいなものだな。どれだけ振りだろうか。10年か、それとも20年か」
給水鼠はその小さな顔から苦笑の表情を作り出し肩をすくめる。
「またまた大袈裟な、4年ぶりですよ。魔王様。」
魔王と呼ばれた女は、そんなものか、と無表情で呟き、ゆっくりと歩き出した。
「おやおや魔王様、どちらへ?」
「もう一眠りする。さっき水を使ったからな、次に起きるまでにまた桶いっぱいに水を入れといておくれよ」
ゆっくりとすみかへ戻る魔王とは対照的に給水鼠は焦って川へと走り出さた。