司書室1

□☆★恋する季節★☆
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「わぁ!綺麗!」
暖かな春風が優しく吹き抜ける刻。
何処までも広がる青空の下で所狭しと咲き誇る無数の桜に、幸村は感嘆の声を上げた。
緋色の豪華な着物に身を包み、微笑している彼女の横顔を一瞥する。
白磁の様に白く、きめ細やかな肌と無邪気な笑みに政宗は心臓が激しく暴れる感覚に苛まれた。
(ヤベぇ、可愛過ぎる…)
伊達が武田と同盟を結んでから半月。
好敵手でもあり、初恋の相手でもある幸村との距離を少しでも縮めたい一心で彼女を城下町へと連れ出した。
しかし、届きそうで届かない距離に進展を阻まれて行動の判断に困惑していた。
先程から張り詰めている緊張を緩めた瞬間、身勝手な本能で彼女を傷付けてしまうのではないかと斜め後ろを歩く事しか出来ない自分が憎らしい。
(Ahー…、馬鹿みてぇ…)
小さな溜め息をついて表情を曇らせた直後。
「姫ぇ♪何してんの♪」
幸村の眼前に人懐っこい笑みを浮かべた彼女の部下である佐助が姿を現した。
『あんたみたいな男が姫の側に居る何て、場違い過ぎだよ。竜の旦那』
冷ややかな視線で吐き捨てられた様な気がして、政宗は彼女に気付かれない様に素早く踵を返す。
段々と小さくなっていく彼の背中に勝ち誇った様な笑みを浮かべた。
(姫と並んで歩く何て一億と二千年早いから)
心の中で毒突き、佐助は僅かに口角を上げた。
その直後に幸村は穏やかな口調で答える。
「桜が咲いていたので、政宗殿と散歩を…」
「竜の旦那居ないよ?」
佐助の言葉に驚き、慌てて振り返れば先程まで行動を共にしていた政宗の姿が消失していた。
「政宗殿?」
名前を呼び、首を傾げるが返事はなかった。
そんな彼女の左手を右手で包んで、佐助は言葉を紡ぐ。
「急に腹でも痛くなったんじゃないの?そんな事よりさ、茶でも飲みに行こう♪」
含み笑いを浮かべ、左手を包んでいた右手で右肩を抱く彼の心情を悟らず幸村は首を縦に振る。
「丁度喉が渇いていた処だったんだ。案内してくれ」
満面の笑顔で投げ掛けられ、双眸を細めた。
「了解っと♪」
同じ歩調で足を動かし、佐助は左手で彼女の頭を撫でた。





「Ahー…」
静かに流れる桜吹雪を全身で受容し、政宗は桜の大樹の根元に腰を降ろした。
先程の冷ややかな視線に思考を囚われ、精神的な疲れに表情が曇った。
(…幸村…)
大きく溜め息をついて首を横に振った直後。
「奥州の伊達男が桜の木の下で溜め息何て随分と野暮だねぇ。どうしたんだい?」
春の陽気と対照的な陰気な彼の様子に微苦笑を浮かべた慶次が前方から姿を現した。
親友である政宗を落胆させている要因が理解出来ず左隣に腰を降ろして首を傾げる。
「…放っといてくれ。今は誰とも話したくねぇ」
「そんな水臭い事言うなって。俺とあんたの仲だろ?」
からかう様な口調に何故か無性に腹が立ち、政宗は声を張り上げた。
「煩ぇんだよ!!あんたに関係ねぇだろ!!」
彼の反応に慶次は怖じる事なく話を続ける。
「そう興奮するなって。幸ちゃんを落とす方法教えてやるからさ!」
言い終えると同時に強引に政宗の右二の腕を掴んで腰を上げさせ、前方に歩を進めた。
「おい!!離せ!!」
驚きを隠せず制止の言葉を吐き出すが、徒労に終わる。
「幸ちゃんをあんたの彼女にしてやるからさ。黙って付いて来なって」
(Contradictionたぁこの事だな…)
穏やかな口調とは正反対の行動に辟易し、政宗は力無く首を縦に振った。





屋外に設けられた茶屋の腰掛けに腰を降ろして桜餅を食べている幸村を慶次は建物の陰から覗き見る。
(お守りはなし、か)
素早く顔を引っ込めて、背後に立ち尽くしている政宗に投げ掛けた。
「一人で居るみたいだから行って来てみな。きっと上手くいくから」
それに答えず、政宗は急造した花束を両手に抱えて足を動かした。
「幸村!」
不意に鼓膜を振動した聞き慣れた声に前方に幸村は視線を向ける。
そんな彼女に政宗は両手に抱えていた花束を彼女に突き付けた。
「Presentだ!」
眼前に突き付けられたそれを一瞥し、幸村と彼の様子を建物の陰から覗き見ている慶次は唖然とした。
白色や黄色の大振りの美しい菊数本が黒色の紐で束ねられている。
「…え…?」
仏前に備える形式のそれに幸村は絶句する事しか出来なかった。
(何やってんだよ!)
「政…」
名前を呼ばれようとしている事に気付かず、政宗は勢いよく問い詰めた。
「いきなり聞くが、あんた…あの忍と付き合ってんのか!?」
あまりにも露骨な問いに慶次は卒倒し、幸村は双眸を見開いた。
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