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□♪旦那様は御主人様♪
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妙に上機嫌だった彼奴の言動から、俺の人生は変化した―。





心地好い風が吹き、穏やかな気候に落ち着きを与えられていた昼下がり。
「俺に構うな」
真っ青な海と空を船の甲板で眺めながら、俺は何時もの素っ気無い態度を示していた。
眉間に深い皺を寄せ、背後に立っている軍主を視界に映さない儘、左手を前後に振り動かす。
その行動は、寄って来た動物を追い払う其れに、良く似ている様に思えた。
「そんな冷たい事ばっか言ってないで、今日の買い物に付き合ってよ」
そんな俺の無愛想な言動を無視しているのか、カイトは目の前に回り込むと、向き合って微笑を浮かべる。
…此奴は、どうも苦手だ。
この船に乗ったあの日から、誰も右手の紋章の餌食にさせない為にと、敢えて冷淡な態度を取ってるってのに、毎日付き纏ってくる此奴。
"遠征に付いて来て"、"買い物に付き合って"等、色々な理由を見付けては、今日みたく俺の元へやって来る。
その反応は、"良くそんなにネタが有るな"と褒めたくなる程で。
まぁ、この綺麗な蒼色の両眼に何度も頼まれると、何故か断れ無ぇってのも有るんだ…。
真剣な視線が、餓鬼の頃に逢った黒髪の彼奴に似ている様な気がして、さ…。
…と、感傷に浸ってる場面じゃ無ぇな。
…普段ならしつこい此奴に、俺が呆れるか根負けして、"今回だけだぞ"と同行してる形が定着している訳だが―。
今日からは、徹底的に無視してやる。
何時迄も、御前の思い通りにはさせねぇぜ?
「…御前に付き合ってやる程、俺も暇じゃ無ぇ」
咳払いをしてから、カイトに素早く背中を向け、無造作に胡座を掻く。
すると、カイトは喉の奥で小さな笑い声を上げてから、再び俺の前に回り込んだ。
「そんな事言ってる割には、退屈そうに煙草吸ってたじゃん」
ちゃんと、見てたんだからね?
…この野郎。
先程の自分の行動を言い当てられ、俺は眉間に一層深い皺を寄せた。
「…御前には、関係無ぇだろ」
舌打ちと共に顔を左に背け、僅かに両眼を細めれば、言葉を続けられる。
「相変わらず冷たいんだから。今日の買い物は面食いの君だからこそ、付いて来て欲しかったんだけど…」
其処迄言うんなら、仕方が無いね。
初めて見せられた反応に、俺は無意識に両眼を見開く。
「じゃあ、また後で―」
気味悪ぃ微笑を残し、足早に歩いて行く背中に、慎重に首を傾げた。
…怪しい。
あんなにしつこい彼奴が、素直に引き下がるとは…。
段々と小さくなっていく其れを眺めると、左手を顎に当てる。
…まさか、"Doll"を買いに行ったとか?
俺との買い物の時に度々通っていた店の事を思い出し、左手で乱暴に頭を掻いた。
―そう言えば。彼奴、商品の事で其処の主人と、何度も熱心な交渉をしてたよな。
人間が作った生きてる人形何かに興味が無かった俺には、どうでも良い物でしか無ぇが―。
考えれば考える程、面倒臭ぇ方向になっていく思考を掻き消す様に、唇に煙草を挟んだ。
乱雑にマッチを擦り、先端に火を点けてから、気怠げに紫煙を吐き出す。
…彼奴が何をしようが、俺には関係無ぇ事だろ。
納得が出来ていない自分を強引に押さえ込むと、俺は背後の甲板に背中を預けてから、静かに両瞼を閉じた。





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