ダブルアーツ

□拍手連載
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真夏。
熱く熱されたコンクリートと照りつける太陽に挟まれ、空気は蒸し暑く、しかも容赦なく体に纏わりつく。とりわけ暑がりだったり汗かきというワケでもないのに、私の首筋には大粒の汗が一つ流れたところだ。
今日は順番通りに私の日直当番の日で、いつも通り朝一番に担任の先生から日誌を受け取る。
日直の相方はあの人だから、やってくれるなんて期待していないから、私はさっさと日直の仕事を終わらせることだけ考えていた。


「(それにしても、暑いなぁ…)」


薄い日誌でパタパタと仰ぎ風を送るが温い風が来るだけだった。
そんな真夏の雰囲気にうんざりして仰ぐのをやめる。こんなことしても、無駄にエネルギーを消費するだけで何にもならない。そう思ったからだ。


教室に来るとやっぱり誰も居なかった。
誰か来るまでには、教室の暑さにやられて半ばしおれ気味の花に水をやって、放課後に困らないように日誌に最低限記入して、

あとは1日、やることやってればいい。
そう決心すれば、また汗が首筋に流れた。



――――――――――――


「ばいばーい」
「じゃねー」
「また明日なー」


クラスメートが帰る中、日誌と一緒に提出するプリントを前に私は未だに椅子に座っていた。鍵を閉めるのは私だから、誰も文句は言うまい。


「(っていうか、こんなの本当だったら1人でやるものじゃないと思うんだけどな…)」


ため息を吐く。
そして横の席を見た。今日は一日中空席だった。そう、日直は席の隣同士でペアを組んで行う。私の隣は言わずもがなその彼。
キリ・ルチルくんの席。
キリ・ルチルくんの事情なんて介入しようとは思わないし別にいいんだけれど、彼は日直の仕事を、一度も、そして何も、やってくれた試しがない。


「あー…暑いし…イライラしちゃうなぁ…」


しかも何も言えない自分にも腹が立つし…ううう…
ダメだ。
こんな考え。
そうして首を振り頬を軽く叩き自分を奮い立たせるようにシャープペンを強く握った。


「1人でも大丈夫!さっさとやっちゃお。」

「何独り言言ってんのー?」

「日誌もさっさと書いちゃおうって気合いを………って、え?」


誰も居なくなった教室。否、私のみが居るはずの教室で、第三者ね声が聞こえたことにびっくりしてその方を向くと、くつくつと笑う学ラン姿の彼が立っていた。


「キ、リくん?」

「っぷ…、本当にアンタって面白いね。」

「忘れ物ですか?」

「いや、違うよ」

「もう授業終わっちゃったし、キリくん寝坊なんてしなさそうだし。」

「アンタの中でオレってどんな位置付けなんだよ。ほら、それ。」


笑いながら彼の指差すのは私の机に広げられた日誌だった。


「……………え?」

「オレも当番だし。」

「、どうしたんですか?頭…」

「オレが日直なんて珍しいなんてオレも分かるけど、イかれちゃいないよ。」



「ほら、アンタが居るのにやらないわけないじゃん。」


こんな好機みすみす見捨ててられるかよ、悪かったな、今までアンタ1人にやらせちゃってさぁ、と笑い近付いてくる。
彼がどんな意味でそう言ったかイマイチ理解出来なくて、そう、ですか、としか返せなかった。
彼はまたニッと笑って日誌を取り上げると、机の整頓やるわ、と言って他人の机を綺麗に並べていった。

呆気にとられながら、
私はハッとして、黒板を消す作業に移ったのだった。




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