ダブルアーツ
□日進月歩
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誰もが饒舌だと語るこの舌は、君の前だともつれてしまう。
自分の気持ちを整理するのは難しいことじゃなく、またそれを人に伝えることも難儀な業では無かった。
それが言っていいことか悪いことかの判断もつくし、
要するに自分は、世渡りが上手いと言われるほど、人に語ることが出来た。
なんて思っていたのは、つい先日までの話だけれど。
「…………………えっと…キリさん?」
「………………………」
今目の前に居る少女、エルレインはとても愛らしい女子であった。
強いて言えば自分は、その彼女に片思い中であった。
それとないアプローチもそつなくこなし、淡く頬を赤らめながら微笑む彼女の口元に胸を高鳴らせ、慌てふためく彼女に接近してみたり、と十分すぎるくらいの表明はしてきた筈ではあるが、
未だに出来ない所業があった。
告白のことである。
「ごめん、待たせちゃって…」
「い、良いですけど…今日のキリさん、なんだか変ですね、」
「………………あ、えっと…」
言え、言うんだ、と奮い立たせてきた精神も、彼女の前ではそれすら脆く崩れ落ち、
饒舌だと語られる口も今や愛の告白も、それどころか、ろくな会話も話すことがままならない始末だった。
「す、…」
「す?」
「………………す、き」
です、なんて聞こえなかったに等しいであろう。それに歯切れの悪い言葉であったと、緊張で声がかすれていたかもしれないと…、
彼女の返事を待つ間に、不安に駆られたキリの手が、優しい温もりに包まれたところで、
2人を祝福するに相応しい春の暖かな風がその髪をなびかせたのだった。
日進月歩
(そしてオレたちは進んでいく。)
(もう一回、ちゃんと言わせて…!)(もう…顔が真っ赤ですよ、キリさん!)
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