更新用ブック
□赤と紫と満月
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辺りはシンとしていた。
何故私はここにいるのか。
そう心の中で自分に聞くと、分からないと答えた。
理由はない。
ただの気まぐれ。
懐かしいのかもしれない。薄暗い、この場所が。
だから、自然とここに足を運んだのかもしれない。
フォ―――――
船の出航の音だろうか。
体に響く音が、耳を支配する。
港でよく聞くこの音が、妙に落ち着く。
なぜだろう、それも、分からない。ただ、何となく好きだ。
船の音と共に、ビュルル…と風が鼻をかすった。
その風と一緒に流れてきた臭い。
……不愉快だった。
なぜだろう、それは、分かる。
このツンとする臭いが、嫌いだからだ。
理由なんて、ない。誰だって、この臭いは嫌いだ。
そして特に、もう一つの煙管の臭いは、私にとっては最悪だった。
「(嘔吐もんネ)」
…ただ、興味があるのは確かで。
そっと、その臭いの場所に行く。
頭のお団子を揺らして、青い目で警戒させて。
音を鳴らさないように、気配を察知されないように、神経を足に集中させて。
近づく臭いに、目を細めながら。
どこかで嗅いだ事のあるニオイに、不安を抱いて。