ネームレス

□刺客
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【テンゾウ】







「…。」


「?」


「オホホホ!カカシもよくゆうたものよのう!!!」


「……。」


「はあ。」




あれから幾らかたった移動の休憩中。
前の屋敷を出発するころはまだ赤みがかった雲もみえたが、今は満天の星空に変わった。
焚かれた火によって人工的に揺れる光が、林の木々を照らし影を落とす。
姫の馬車を中心に何やら宴会ごとの様な音が聞こえてくるが、僕たちはそこから50mほど離れた馬車の屋根で怪しい動きが無いかどうか見張りをしていた。
本来なら護衛対象のそばで見張りをするのがベストだが、あの姫が僕たちを近づけてはくれず、こんなところで"待て"をさせられて二人黙りこくっている状態だ。


話題が無いわけじゃないし、僕としてもジュンさんとは話がしたいと思っている。
でも今は黙る。
何故ってジュンさんが今とても不機嫌だから。


「椿様もお上手ですよ。」


「カカシの教え方がうまいからであろう!」



「……………。」




別に態度に出てるわけじゃない、表情を崩しているわけでもないし、殺気だっているわけでもない。
だが隣にいると分かるのだ、どんどん纏う空気が冷たく乾いたものになっていくのが。
そんなジュンさんに話しかけられるはずもなく、僕は気付かれないように小さくため息をつく。


すると火の光源が集中する姫の馬車の方角から何やら人影がかけてきた。
逆光で分かり辛かったが、それは使用人の巳隅さんだった。



「こちらにいらしたんですか、これは御二方のご夕食にございます。
旅の途中ゆえ何分質素にございますが、味は保証しますよ。」



巳隅さんは僕たちが乗っている馬車の近くまで来ると、笑顔になり僕らに見えるように手に乗った器を見せる。
僕は隣のジュンさんを見やったが、巳隅さんの方を見向きもしないので、僕は馬車の屋根から降りその器を受け取った。
蓋のついた器は底の方は温かかった。




「わざわざありがとうございます。」


「いえ、護衛をして頂いているのですから、これくらいは当然です。
ただの雑炊で、本当にお恥ずかしいのですが、ぜひ屋敷に到着した暁にはもっと手の込んだものを。」


「いいえ、忍にとって任務中に温かいものが食べられるというのは、とても贅沢なことです。
ありがたく頂きます。」


「誠にございますか!
失礼とは存じておりますが、普段はどのようなものを?」


「良くて粽とかです、ほとんどは兵糧丸という丸薬で済ませています。」


「左様でございますか、では…」



少しの間弾む巳隅さんとの談話。
しかしその間にもジュンさんは降りてくる気配が無いので、僕は恐る恐る声をかけた。



「あ、の、ジュンさんもご一緒にどうですか?」




 
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