orphan*2=drug*(1/f*aube)=”緤”

□光の射す方へ
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知識や教養をいくら身に付けたところで


結局は一番にならなきゃ意味がない


俺は俺のやり方で生きていく


そう決めた時、お前は何を思った?








〈orphan*2=drug*(1/f*aube)="緤"〉









それは授業が終わって
個々に思い思いの遊びをしている時だ。





ざわざわとした子供の騒ぐ声が聞こえた。
普段遊んでいる感じとは少し違う。



違和感を感じた俺は
その騒ぎのする方へ駆けつけた。

そして一目見て瞬時に状況が把握することができた。




数人の悪ガキ共が歪んだ笑顔で
新入生を囲み、盛大に『歓迎』してやろうと騒いでいたのだ。


そして、それを遠巻きから
眺めているギャラリーまでいた。




(ただの新人か。
どうせ、たいしたことないだろ…)



そんな程度しか思わなかった。



騒ぎの原因が分かった俺は
その場を去ろうとした。


新入生いびりをする程、
俺はバカではないし
黙って眺めているような趣味もない。





……?




ふと立ち止まる。


どこからか視線を感じた。

振り返ってその先をたどると、
騒ぎの中心人物である新入生が
真っ直ぐ俺を見ていた。



目が離せなかった。
向こうも俺から目を反らそうとしない。


ピタリ、と時間が止まった気がした。
騒がしかった空間が静まる。






「……」

「……」





『目が合った』よりは『睨み合った』
という方が正しいかもしれない。






子供達の視線は新入生から、
俺に切り替わっていた。






「……何だ」






苛立ってそう言うと
奴はフン、と短く鼻で笑い
やっと視線を反らした。



これが合図のように周りはまた騒ぎ出す。



態度が気に食わなかったが、
そんな事はどうでもいい。



……今のあいつの目は

他の人間とは明らかに違った。





奴は周りを取り巻くガキ共に連れられて
大人の目が届かない教室へと消えた。





なんだあいつ……



幼かった俺は、
その場で立ちすくむしかなかった。




あいつの目を見た瞬間、ぞくりとした。
それは恐怖なんかじゃない。



恐怖よりも、ずっと最悪な……。




今となればこうして説明もつくが、
この頃は直感で感じただけだ。


まだ幼い本能が警報を鳴らす。


だが警報が激しく鳴るほど、


俺の好奇心はうずいていた。



その先に恐怖しかなかったとしても、
一度、触れると癖になる。


まだ味わった事のない感覚を
掴めるような気がしてならなかった。




あいつの名前は?

年齢は?


……ちゃんと話しをしてみたい




どうやって新入生と接触を試みようか
考え始めたその時だった。




「メロ、新入生しらないか?
名前は……マットだ。
見かけなかったか?」





辺りを見渡しながら、
このワイミーズハウスの院長である、
ロジャーがやって来た。



マット……

あいつの名前か。




「今から院の案内をしようと思うんだが
見当たらなくてな、」



「……」



「どこに行ったんだか……」



困った、心配だ、
というよりも
厄介だ、迷惑だ、
と眉を下げているように見えた。




「あの使ってない奥の教室。行ってみろ」


他をあたろうとした
ロジャーの背中に投げかける。



振り向いたその顔は冷めたもんだ。
きっと分かったんだろう。
あの教室でどんな事が起こっているのか。


ロジャーは「そうか、」と呟いて
奥の教室へ向かっていく。
俺はその後ろを追いかけた。








ロジャーがドアを開けるなり、
蜘蛛の子を散らした様にガキ共が
教室を飛び出していく。



俺はその姿を見送り、
ドアの影に隠れるように聞き耳を立てた。







「マット、大丈夫か?」


「別に。なんにもされてないよ」


「……まあ、みんな仲良くなりたいんだ。
許してやってくれ」




マットはまだ悪ガキ共から『歓迎』を
されていなかったようだ。
だが、一歩遅ければきっと袋叩きに
合っていただろう。



助かったな、マット


ふん、と嫌みを込めて口角を歪ませた。




「……。
あのさ…」



「なんだ?」



「メロ、だろ?」




……!


体がピクッと反応する。
突然、名前を呼ばれたら、
誰だってそうなるだろう。



なんで分かった?


いや、名前を知っている?





「ロジャーに居場所教えたの、
メロって奴だろ?」



「あ…、あぁ。
確かに場所を教えてくれたのはメロだ。
なんだ、さっそく友達になったのか」



「違うよ。
さっきの奴らが言ってたから。
メロに逆らう奴は虐められるっってさ。





……お前のことだろ?」







「見つけた」と言わんばかりの顔でドアの隙間から俺を覗き込んだ。


「……」


何も言えずに黙っていると、
マットは俺の隣に来て生意気そうな笑顔を見せた。



赤毛に縁取られた愛想の良い笑顔の奥で、光をも映さない瞳の理由を当時の俺が知る由もない。



ただ、なんで俺がここ(ドアの影)にいることが分かったのか、そればっかり気になっていた。







今なら、分かる。


『すべて』が、分かる。


こんな事は言いたくないが、

ただ一つ言えるのは、

初めて目が合った時、
ぞくりとしたのは恐怖のせいじゃない
愛のせいだ。



それは恐怖よりも、最悪なもんだ。








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