orphan*2=drug*(1/f*aube)=”緤”
□クラウドナイン
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打ち出されたナンバリングはfrom E to N.
EightからNineへ。
過去の曇天。
霧は晴れたか。
光差す9番目の雲の上。
コマ送りのように変化に乏しい日常。
バカみたいに晴れた空。
そして雑然とした教室の中。
ああ今日も世界は平和なり。
・・・上っ面だけは。
なんつって。
ここも似たようなもんか。
平穏が溢れるワールドワイド縮小版な、ミニチュアドールハウスも上辺だけは・・・ピンフ。
イヤ、平和。
その証拠に空き教室での一件を知る生徒はほとんどいないようだった。
てかタバコ吸いてぇ。
なんの脈絡もないけどタバコ推定。
今度校内をくまなく探索しとかなきゃな。
俺のスモーキングNO.1プレイスを確保すべく。
両面待ちで。
しかし一番後ろの席ってのは教室全体が見渡せて、自然と色んなモンが目に入ってくる。
微かな嫉妬にしがらみ、馬も蹴らない恋愛模様、多少のダークマターはあるものの。
このクラスは、良くも悪くもピースフルそのもの。
あくびが出る程に。
俺が壁にもたれ掛かりながら、椅子の後ろ足2本だけで絶妙なバランスを保っていると、目の前でクラスメイトがメロに話し掛けた。
「なぁメロ、短距離走もちろん出るよな?」
なにゆえ短距離走か?
それは約一週間後にお気楽極楽な体育祭が控えているからだ。
ここんところ教室ではワイミーズ体育祭の話題で持ちきりだった。
なんでも優勝クラスには、褒美が出るとか出ないとか。
その内容までは知らされていないけれど、勉強や特殊能力の育成に日々どっぷり漬かっている生徒達にとって、それは随分と魅力的な餌らしい。
皆、優勝に向かって躍起になっている。
運動神経が飛び抜けているメロの周りには、いつも以上に子供達が群がっていた。
「メロが出てくれたら、優勝は決まったようなもんだよな」
「ああ、100mと200mだけでイイのか?」
まんざらでもないと云った様子でメロが応える。
「イヤ、メロの俊足なら是非ともリレーも!
それと400m」
「は?400mってお前!
それ一番キツいヤツじゃんか!」
驚愕の形を作るメロの口唇の動きを見ていると、いやが応にも思い出す。
あの時のキスを。
みんなが向かう先であるクラスの優勝フラグとは、完全に違う切り口でメロを見ている自分に気が付く。
思わず苦笑が漏れた。
アイツの口唇の端に出来た例の傷はもうすっかり完治していた。
肉体は再生。
俺の心は最盛。
ね、メロは俺の事どう思ってんの?
あれから一切、あの夜について触れてこないけど。
俺・・・。
少しはキミの心のホワイトキー回せてんのかな?
なんて聞けるハズもなく。
白い肌に艶めく薄紅。
遠目からでもわかる、柔らかさ・・・。
ああ、最強天使。
俺はただ見つめるだけ。
ひとたびその拳を振り上げれば誰もが恐れるメロちゃんなのだが、普段は眉目秀麗、男気溢れるイイ奴なのだ。
ゆえにファンも多い。
無理やり同室を剥奪しただけじゃ飽き足らず、実は可憐な口唇までもを奪った、なんて知られたら俺、マジ殺されるかも。
ホント。
カリスマティックな凶暴姫様だよな・・・。
魅惑の花唇をボーっとしながら見ていた俺の浮いた思考は、突然の語り掛けによって遮られた。
「なぁ、マットも貢献してくれんだろ?」
蚊帳の外だと思っていたらクラスメイトにいきなり名前を呼ばれて面食らった訳で。
ガッタンと音を立てて、椅子が本来の機能を取り戻す。
「え?何に?」
思わず前のめり。
えーと、コイツの名前・・・なんだっけ?
「陸上競技に決まってんじゃん。
マット、足速そうだし、身軽そうだし」
へぇ。
そんな風に見られてんだ。
「見かけ倒しだぜ?俺」
「ウソつけよ」
パシッと白い紙で頭を叩かれる。
「っ痛ェ、なにコレ?」
「出場用紙。
名前、適当に書いといて。
一人二種目はノルマな」
「マジかよ!!」
適当に書く名前なんぞ持ち合わせてないんだけど。
つかサボる気満々なんだけど。
とりあえずズラリ並んだ種目ラインナップに目を通す。
800m・・・パス。
1500m・・・殺す気か!
棒高跳び・・・メロ以外の棒の扱い苦手なんでパス。
砲丸投げ・・・オィオィそんなのまであんのかよ!?
槍投げ・・・ハイパーオリンピックか!
なんだコレ。
めちゃくちゃ本格的じゃん。
てかこのお世辞にも広いとは言い難いグラウンドでやる気?
本気?
俺は仕方ないので比較的クリア出来そうな走り高跳びと、クレー射撃を選んだ。
イヤイヤ、種目に普通にクレー射撃ぶっ込むて、どんな体育祭だよ。
さすがワイミーズっつか、なんつか。
乱雑にコードネームを殴り書く。
みんな、熱いね全く。
青春群像ってヤツ?
ざっと見たところ、陸上短距離走のほぼ全てにメロのサインがある。
こりゃ、当日が楽しみだっつう。
MVP決まりでしょ。
さらに畳み掛けるようにそいつが補足する。
「ああそれから、クラスで最下位の得点を叩き出したヤツは女装、もしくは男装してフィナーレにチアリーディングが決まりだから」
「うぉい!!
それを早く言え!!」
なんつー慣例だソレ!
絶対サボれねぇじゃん!
って、ああ。
サボり防止策?
どんだけ本気だよ。
それからというもの、若人の有り余る力は体育祭に向け最大限発揮されていた。
俺は、というと。
入場ゲートに色を塗りながら、ちゃっかり喫煙スペースを職員用トイレに確保した訳で。
メロもエースの意地か、はたまた一番への執着心か、短距離走に向けてのウォーミングアップに余念がない。
ホント。
メロちゃんは真面目だなぁ。
そのうち空気抵抗が、とか、ウサイン・ボルトのDVD見せろ!とか言い出すんじゃないかと俺は思ったりなんかしている。
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