orphan*2=drug*(1/f*aube)=”緤”

□マトリョーシカ
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どよめき立つ教室で、俺はぼんやり窓の外を眺めていた。
マットとのあの時間は突然発したマットの一言で終わってしまった。そして体育祭が終わると共に、何事もなかったかのように二人の時間は自然に現実へとベクトルを合わせて混ざった。


だけど、俺は腑に落ちなくて頭の隅で考えていた。


自分のことは一番自分が分かっている。だけど一番自分が分からない、と誰かが言っていたのを思い出す。

漠然とした不安が襲う。

マットに会ってからというもの、調子が狂ってきている。どうでもいい事が気になったり、気にしていた事がどうでもよくなったり。

白黒つけずに誤魔化していた疑問まで
気にかかって仕方が無い。

とりあえず答えを出して自分を納得させて終わりにしていた問題が、このままでいいのかと責めてくる。

もしかしたらマットは正解を知っているのかもしれない。だからこそヤツの言動に振り回されている気がしてならない。

目を背けていた場所に改めて向き合わなきゃいけないんだろうか。
だけどどこかで、解決すると自分の中で何かが変わる予感もしていた。嫌でも浮かんでくる疑問が頭の中をぐるぐると駆け巡る。

俺の中では最大の疑問。


どうして?

なぜ?

母親はどうして俺を生んだ?

なぜ、親は俺を捨てたんだ


……いったい、
何度自問自答を繰り返しただろうか。


たとえば、子孫を残したとしたら何かしらその子供にやらなければいけない事だってあるだろう。


生まれたての俺に、
顔も名前も声も体温も、何も伝えなかった女は何がしたかったんだ?



今更聞いたところで何の足しにもならないだろう。

きっとただ欲求に任せた結果、俺が産み落とされただけだ。

ふざけたもんだ。

そうじゃなきゃ我が子を手放す理由にはならない。


時々、見たりする物語や小説に出てくる両親や兄弟、家族などの話し。

それが何なのか、まったく分からなかった。


俺を生んだ女は俺を捨てた。
父親も同じだ。俺を捨てた。

……これが最大の問題だった。

親が子供を捨てるのは、現実ではよくあることなのか。それとも捨てたのではなく売ったのか。

だとしても。


ここにいる子供は、みんな俺と同じかもしれない。だけど誰ひとりとして家族について話さない。

知らないものは語れない。ある意味分かり切った方程式だが、ここはただの孤児院ではないから考えが揺らぐ。

家族の話しをして、身内に悪い事があっても良い事はないからだ。犯罪に巻き込まれる可能性が多いに秘めている。

それは口煩く教育された賜物だった。
誰も疑問にしない。言わない。でももしかしたら知っているから、家族を知っているから口に出さなくとも分かるからこそ、言わないのかもしれない。

知らないのは俺だけなのか。

無知が恥ずかしくて、誰にも聞く事ができなかった。どうしてもプライドが許さなかった。

俺は自分が生まれた意味を、誕生の意味を知りたくて、さまざまな角度から調査を試みた。


理解したくてたまらなくて、分からない自分が、まるで世界から見放されたような気分になった。

でも結局、必死に理解しようとしたが勉強で学ぶことと体験するのとではワケが違うことに気づいた。

俺はもう二度と、この先永遠に分からないだろう。

この答えに辿り着き、そこで俺の思考は停止した。

自分がこの世界に生まれてきた、ということは、いつか死ぬ、ということ。

ただ、それだけだった。

結局究極の結果しか知る事はできなかった。

よく聞く、家庭像は俺からしてみれば絵空事で。

俺にとって、始まりがあれば終わりがあるように産まれたから死ぬ、ただそだけが現実だった。

あまりにも虚しく、幼い子供の俺には残酷すぎる結果だった。

この唯一の疑問は、欲求へと変わったのだろうか。だから必死に存在意義をもとめていたのかもしれない。


小さな施設の中で必死になって、なにも疑わずに知識を頭に詰め込んで、此処では神に近い存在のLに、知ってもらいたくて足掻いた。


俺の存在を知って、認めて、よくやったと褒められたかったのかもしれない。

物語で見かける母親や父親に甘える子供の様に。



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