orphan*2=drug*(1/f*aube)=”緤”
□マトリョーシカ
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「んで、なんだ?」
マットがこれ以上ないくらいの眩しい笑顔で首を傾げていた。
一日の授業が終わり、部屋に戻った俺は2週間はやりくりできそうな物を個別で袋に分け大きな鞄に詰め込んでいた。
念の為、長期間になった場合を考えての事もあるがもともと荷物は少ないから殆どが非常食だった。
「べっつに〜」
お前は用意しなくていいのか、と言いたくなったがやめた。手伝えといいかねない。
「早く来週になんねーかな」
「……妙に浮かれてんな」
体育祭の優勝クラスに捧げられる研修という名の旅行が迫っていた。
少しの自由と、少しの勉強。
いくら好きな事をしていいとはいえ、毎日この施設から出ずにいるのは息が詰まる。
外に出れるのは、かなりのご褒美だった。他のクラスのヤツらからは羨望の眼差しを受けるのもムリはない。
マットは鼻歌でも歌いそうな勢いで、ベッドに寝転んだ。俺は最後の荷物をしまい込み準備を終わらせた。
あとは今日の予習をして寝るだけ。いつも通り、小さな灯りをつけて犯罪心理と経済学の資料を読み漁った。
最近はパソコンも一人につき一台与えられ、知りたい事は簡単に調べられるようになった。
予習が終わり一息つくと足を投げだし椅子に浅くもたれた。
腕を伸ばし固まった筋肉をほぐすと、腕を戻す勢いのまま机に向き合った。
あまり使っていないパソコンが、埃をかぶってその時をじっと待っているように見えた。
ほんの出来心、とまでいかない程の思いつきで自分の名前をインターネットで検索にかけてみる。
もしかしたら、という期待もあったのかもしれない。
特別、自分に関する結果は得られなかった。いやこれでいい。そもそもインターネットで何かしら情報が出てきたら問題だ。
なにやってんだ、と自分をあざ笑う。
パソコンの電源を落とし、さっきまで準備していた鞄へ向かう。疲れもあってか腹の虫が鳴っていた。非常食がこんなに早く役立つとは。
明日追加しておくか……とぼんやり考えなら鞄を開けた。
小分けにした袋をひとつ取り出すと、奥の方に見覚えのない袋があった。
なんだ?と取り出して中を開けると、数個の煙草とライターが入っていた。
準備してないと思ったらこういうことか。
今はすやすやと寝息を立てて眠っているマットが、ついさっきいたずらに笑っていた顔が浮かんだ。
勝手に入れやがって。荷物持たないつもりかよ……と腹が立ったが、同時に頼られている気がして悪い気はしなかった。
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