★SHORT★
□君の隣に今帰る
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さくさくと軽い音を立てながら、愛と麻琴は波打ち際付近を歩いていた。
砂浜に打ち寄せる波は二人が歩く位置まで届かない為、足跡は残ったまま。
傾きかけの太陽に照らされオレンジ色に染められた砂浜は、何処か幻想的で、そして
儚さを感じさせた。
不意に、数歩前を歩いていた愛の歩みが止まる。
合わせる様に麻琴が止まれば愛が小さく呟いた。
「もう、何日も無いんやな・・・。」
麻琴の表情が少し歪められる。
それは麻琴が娘。から巣立つ日が迫っているということ。
――――8月27日。
5年も一緒にいた人間が、明日からはもういない。
それを受け入れなければならない日。
隣りがぽっかりと空いてしまう空虚感に恐怖を感じ、愛は震えた。
一ヶ月前にも味わったばかりだというのに、また味わわなければならないのか?
しかも今回は自分にとって――――。
「愛ちゃん・・・。」
「分かってる、分かってるよ。連絡だって取り合えるし、直ぐあっちに行くわけや無
い。まだ時間が有
るのは十分理解しとる。けど―――っ!」
“明日からの娘。に、麻琴はいない―――。”
静かに泣き出した愛を後ろから優しく抱き締め、麻琴は瞼を伏せた。
自分だって愛と同じ所に居られなくなるのは辛い。
しかしもう決めたこと。
決まったことなのだ。
「私等、そんなんで別れちゃうような関係じゃないでしょ?」
「うぐ、ぇっ・・・ぅんっ・・・。」
「大丈夫。私は必ず愛ちゃんの元に帰って来るから・・・ね?」
「ふぇっ・・・やく、そく・・やよ?あーし、待ってる、から・・・っ。」