02/20の日記

16:48
夜光雲
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「何故、あの雲は光っているのだと思いますか」


それは今でも時々夢に見る、「彼」との懐かしい思い出の残滓だった。
夢の中の私は彼の鶯色の瞳を見つめ、かの人の名前を思い出そうとして、止める。
この場面で、自分はこの人の名を呼ぶ事はない。
私は彼が指差す方に大人しく目線を向けて、夕暮れ時の空に広がる黒い雲の海に、それを見つける。



夜に染まりかけた天空の中、ぼんやりと白く光る、一筋の雲を。



「…月が、隠れているのでは?」

「月はあちら」


私はまた大人しく、彼が指す方に目を向ける。
美しい満月が、調度私の死角に位置する大窓から煌々と輝いていた。
私は先ほど見付けた光る雲を、再び見つめ直した。

(……飛行機、はあんなに周囲を照らさないし、あれは雷のような断続的な光でもない。下から照らしているのなら光線が見えるはずだ。すぐ分かる。…じゃあ……)

…あれは、……あれはなんだ?

その時、「彼」がくすりと笑った。
私はその顔を見つめる。
そうだった。この人は、そうやって笑う人だった。
「彼」はいつもため息をひとつ零してから、漸くことりと笑う人だった。
まるで口から宝石を吐き出すような、それはきっと彼にとって、苦痛を伴う現象だったのだろう。


「夜光雲ですよ」

「…………」


彼が言った言葉の意味が暫く飲み込めずに、私は彼を見つめ続ける。


「月もないのに、雲が勝手に光っているんです」


随分とぞんざいな説明を投げて寄越しながら、彼は湯呑みにお茶を注いだ。


「……私はてっきり、UFOでも隠れているのかと思った」

「面白い方」


ふう、ことり。彼はそうやって笑う。


「君は物書きの私よりも、たくさんの事を知っているね」

「滅相もございません。僕の様な男娼風情が、せんせいより学があるなど」

「…君は物知りだよ」


私は彼が淹れてくれたお茶を飲みながら、もう一度窓の向こうに視線をやった。
夜光雲、と呼ばれる不思議な雲は、先ほどよりも明るく周囲を照らしている。
こうなると、どうやって光っているのか気になってくる。
でもきっと、「彼」は教えてくれないだろう。
もしかしたら彼も名前を知っているだけで、仕組みまでは知らないのかもしれない。


「空っぽなのですよ、あの雲の中は」


悲しげな、男にしては高すぎる「彼」の声が、静かな部屋の中にりんと響いた。
私は夜光雲を見つめながら、そうだねと相槌を打つ。


「…月を愛でる人を欺く、悪い雲……」


私は彼の、この一風変わった言葉の羅列が好きだった。
物書きとしての性かもしれない。
私は彼がすきだった。


「君の言葉はきれいだ」


今度は、彼が私を見つめる番だった。


「君といると楽しい」

「……勿体ないお言葉です」


娼夫と客という立場にありながら、私は未だ彼の体に触れた事はなかった。
どうしてかは、よく分からない。
ただ自然と、私にはそういった欲が芽生える事はなかった。


(…きっと私は、彼の泣き顔よりも、笑顔を見ていたかったのだ…)


夜光雲と月光に照らされたこの不思議と明るい部屋で、私はただ彼を見つめた。
彼の毛色の変わった撫子色の髪が、窓から流れる風に任せてふわりと揺れている。
彼も私を見つめた。


夢の中の彼は、ことりと苦しそうに微笑みを吐き出している。




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先日仕事帰りに、光っている雲を見付けました。
月が隠れてんのかな〜とぼんやり歩いてると、正面のビルの陰からでっっっかい満月が。
で、Wikiった結果夜光雲なる雲の存在を知った訳です(^-^)
しかし実際日本では夜光雲は見れないらしいので、(多分)じゃあ私が見たものって一体…光る雲…未確認…飛行物体……うっ頭が

いや〜久々に創作書きました〜(^○^)っていうか創作で小説書くって人生初なのでは

娼夫の「彼」と小説家の「私」の話です。
あ、どっちも男です。ホモです。
もうちょっとだけ続きたいんじゃ〜〜〜(^○^)

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