■心理学の誕生■
心理学とは、簡単に言うと「人の心について研究する学問」です。
他の学問同様、仮説→実験→証明という形をとります。
ただ「心」というのは不可視なものなので、実験により信頼に足る数値や結果が得られたとき、「このような状況下で、こういった行動をするということは、こんな心の状態である」という証明となります。
心理学とは「心の科学」「行動の科学」とも呼ばれますが、
人の心を理論的に考察しようと試みたのは、古代ギリシャの哲学者アリストテレスと言われています。

アリストテレスはその著書「霊魂論」の中で、感覚、記憶,想起、睡眠,覚醒といった、現代心理学にも通じる理論を展開しました。
現代心理学が扱うほとんどの課題をすでに系統的に論述しており、その優れた論理的展開は、それ以前のアニミズム思想や霊魂の時代を超えて「世界で最初の心理学書」と評されます。
しかし、アリストテレスの論じた内容は、あくまで哲学領域であり、科学的方法による心理学とは異なるものでした。

以降、17世紀半ばにイギリスで「経験主義心理学」が生まれ、デイヴィッド・ヒューム、ジョン・ロックなどにより「連想心理学」が提唱されました。
連想心理学は「人は生まれたときは白紙である」と考え、ロックは「心は最初は白紙であり、観念の結合である、観念は経験によって与えられる」と主張しました。
一方、同時期ドイツでは「理性主義心理学」が生まれ「能力心理学」へと発展。
能力心理学とは、「人は生まれながらに決まった才能があり、精神構造を(智・情・意)の3つに分けて考える」主張です。

このような流れの中、19世紀後半「心理学の父」と呼ばれるヴントの登場により、心理学は科学として学問的に成立することとなりました。
ヴントは1897年ドイツのライプチヒ大学にて「心理学実験室」を開設し、「内観法」という、心を物体として捉えず、意識が経験したことの全体であると考え、被験者に様々な刺激を与えてその瞬間にどうのようなことを意識したかを詳しく調べる方法を取りました。

内観法とは例えば、「オレンジ」という単語から連想するものを挙げます。
視覚からは色や形、味覚からは酸っぱい、触覚からはツルツルした、といったような概念がいくつも出てきます。
これら人の五感が刺激されて現れた概念を「心的要素」、この心的要素が結びつくことでオレンジという「心的要素の結合体」が成立し、この結合の法則を解明することで、人の心の動きを解明しようとしたのです。
哲学では「自分の心を見つめ、意識を観察する」のですが、ヴントは「意識を構成している要素を取り出し、分析する」という自然科学の手法をもって人の心の動きを解明しようとしたのです。
これらの手法からヴントの心理学は「構成主義」と呼ばれます。

■ゲシュタルト心理学派■
物事を要素に分解して考えるのが近代科学の基本的な思考です。
しかし、心は物理学が対象とするようなものではなく、よって心を研究するにあたり、それ相応の考え方が必要であるという人々が現れました。
1910年代ドイツ、M・ウェルトハイマーやW・ケーラー、K・コフカといった研究者が「ゲシュタルト心理学派」を形成。
ゲシュタルトとは、「全体」「形態」といった和訳に近いニュアンスで、例えば光電管式の標識のように、近くで見ると小さな電球の点滅にすぎないものが、遠くから見ると文字や絵となって見えるといったように、ゲシュタルト心理学派は、人が何かを見た瞬間、そのものを1つの全体として捉えるのであるから、モノの見え方を細かく分析していったとしても、必ずしもそのメカニズムが解明できるわけではないと主張したのです。
端的に言うと、「全体は要素の集合体ではなく、要素は全体により規定されている、まずはじめに全体ありき」という考え方です。

その結果「はじめに全体ありき」という、個々の重視より全体を捉える方法がナチズムに利用されることとなっていき、 先のヴントの弟子たちと同様、ゲシュタルト心理学者たちもその多くがナチズムを逃れアメリカへ移住することになり、この事から、20世紀の心理学の中心はアメリカであると言われる理由となりました。

■行動主義心理学■
20世紀に入ると「意識こそ心理学の本質である」としてきた通念に対して真っ向から対立する意見が発生しました。
ワトソンによる「行動主義心理学」です。
ワトソンは「科学として心理学を追求するには、主観的な内観による意識の分析だけではだめで、科学的測定に耐え得る行動の分析がなければならない」と、ヴントの築いた心理学を否定しました。

■精神分析学■
20世紀の心理学を考える上で非常に重要な地位を占める人物がジークムント・フロイトです。
フロイトは精神科の医師であり、ヒステリーの治療を通じて「精神分析療法」という独自の心の治療法を開発し、その理論体系は「精神分析学」と呼ばれ、精神医学や心理学に限らず、哲学や芸術にまで影響を与えました。
フロイトが残した最も大きな業績として「無意識」という考えを心理学に持ち込んだことでした。
「私たちが普段決して意識することがない無意識の世界がある」という考えです。
その理論によれば、私たちは思い出したくない嫌なことを無意識の世界に追いやるのですが、
その観念は絶えず「意識の世界」に入り込もうとしている。
こうした心の葛藤が様々な行動を引き起こすと考えたのです。

フロイトはこのように、神経症が無意識を反映したものであることを示すと同時に、神経症を治療するには無意識を意識化することが必要であるといい、意識化を妨げる抵抗や抑圧の研究を行いました。
さらに従来行ってきた催眠による治療をやめ、夢分析や自由連想法を用いて治療にあたるようになりました。

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