■情報化社会が人間に与える影響■
現代は情報過多の時代です。外に出るとポスターや標識、ディスプレイなど様々な物が目に入ります。
音や匂いといったものも加えると、あらゆる情報に取り囲まれて生活しているといえます。
これら全ての情報を処理しようとすると、1日のエネルギーの大半をそこへ費やさなければなりません。

このように情報が多く処理しきれない状況を心理学では「過剰負荷環境」とよんでいます。
こうした過剰負荷環境に対応するには、家から一歩も出なければ完全に情報をシャットアウトできるかもしれませんが、
これでは健全な社会生活を送ることはできません。

アメリカの社会心理学者ミルグラムは、過剰負荷環境に順応しようとする「退避症候群」の人々の反応を次のように挙げています。

◆それぞれの情報をできる限り短時間で処理する◆
例えば他人に道を尋ねられても必要最低限の情報だけ伝えて、
相手との接触をできるだけ避けるようにする。

◆重要でない情報は無視する◆
例えばエレベーターで乗り合わせた他人には注意を払わず無視するような行動。

◆責任を他人に押し付ける◆
例えば人が倒れていても自分が助ける義務はないというもの。

◆他人との個人的な接触は極力少なくする◆
例えば電話番号を教えない、飲み会に参加しない、じぶんから誰かに連絡すことはないといったもの。

〜「都会の人は冷たい」という言葉は、このような退避方法により、過剰負荷環境に適応しようとしているところから感じられるものかもしれません。

「個」と「群」

■ファミリア・ストレンジャー■
社会心理学者のミルグラムは、大都市に住む人々には多くの「ファミリア・ストレンジャー」がいると考えました。
ファミリア・ストレンジャーとは、「顔はよく知っているが、挨拶も話した事もない見慣れた他人」のことです。
ミルグラムの実験に、通勤電車のホームで待っている乗客の写真を撮り、次の週に同じ電車に乗り込み乗客にその写真を見せました。
その結果、1人あたり平均して4人の乗客(ファミリア・ストレンジャー)を認識していることがわかりました。
しかも、身近な空間にいるファミリア・ストレンジャーに興味や関心をもっていたのです。
このことから、ファミリア・ストレンジャーは何かのきっかけさえあれば知り合いになったり、お互いの心理的距離を一気に縮めることが可能といえるでしょう。
近隣騒音の調査では、騒音の迷惑度を100%とすると、顔を合わせて挨拶する間柄になると35%に激減したそうです。
つまり、近所の人とはファミリア・ストレンジャーでいるより、挨拶を交わすような知り合いになれば、より良い近隣関係が築けるといえるでしょう。

■集団心理■
エール大学の社会心理学者ジャニスは、集団にはその行動を左右する「集団思考」が働くとしています。
顕著な例が「不敗の幻想」です。
強い団結心で結ばれ、それぞれが集団のために動くと信じている場合、そのメンバーは集団の大きさや結束の強固さを「強さ」と錯覚してしまい、楽観的な気分に支配され、全ての障害を簡単に乗り越えられると思い込んでしまうといいます。

この考えが次の「満場一致の幻想」を生むこととなります。
1人でも反対するものがいれば集団の結束を損なうのではないかという考えが働き、その場にいる数人は疑問をもっていたとしても、発言を控える傾向にあるそうです。
このような集団思考に捉われると、集団の一体感を崩さないことに注意が奪われ、十分な検討というものができなくなります。
その結果、現実的有効な解決方法が見えなくなってしまうのです。

この典型的な例として1961年のキューバ・ピッグス湾事件というものがあります。
ケネディとそのブレーン(知能顧問)たちは敵兵力を過小評価し、アメリカ軍の攻撃がなくとも、
カストロ政権を倒すことができると楽観的な判断をしてしまいました。
その結果、弾薬や補給物資を積んだ船は3日で撃沈され侵攻部隊は全滅してしまったのです。
こうした集団思考は企業においても同様のことがいえます。
問題解決に有効と思われる解決案を自由に討論できる雰囲気を日頃から培っておき、集団思考のメカニズムを理解するとともに、メンバー全員が集団思考に陥らないように注意することが大切であると思われます。

■群集心理■
群衆による暴動やリンチ事件に加わった個々を見ると、個人としては凶暴でも残虐でもない普通の人であることが多いものです。
ところが群集の中では理性がなくなり、普段からは想像できないような行動を起こしてしまうことがあります。

このような行動は、社会生活における様々な欲求不満が積み重なり、群集として不満の解消が誘発されるという「欲求不満説」から説明することができます。
また、見知らぬ人同士の集まりの中では、一人一人の責任感も薄れ、無責任で道徳に反した行動を引き起こしやすくなります。
これは多くの人が共通の対象に対して共通の反応をするのを見ると、自分だけではなく、他人も同じように感じるのだという安心感を覚え、
その行動の正当性を信じきってしまうようになるためです。
これを心理学では「普遍性」といい、いわゆる「みんなでやれば怖くない」という心理状態です。
加えて、人間は元々「知らず知らずのうちに大多数に習う」という傾向があり、これを「数の圧力」といいます。
さらに、群集の中で憎悪や敵意、不信感、欲求不満が高まると、その状況を共にする人たちの間に共通の基準枠が生まれ、人々の価値基準や状況の認識がそうした枠組みに規定されるようになります。

一般的に、このようなケースでの判断基準の枠組みは個人の場合よりも極端な方向へ偏りやすいと言われています。
◆普遍感◆
多勢の人と同一の対象に対して、共通の反応をしていることに安心し、正当性を信じきってしまう。

◆数の圧力◆
多数の意見の圧力に対して、それに同調することにより、安定感を得ようとする心理。

◆欲求不満説◆
社会生活を送る上で蓄積されてきた欲求不満を群集の中で解消しようとする心理。

◆感染説◆
伝染病のように一人一人に刺激が伝わっていくたびに、その感情や刺激が大きくなり、最後には個人の考えなども奪われていくという説。

◆暗示・模倣説◆
伝えられた情報を鵜呑みにしたり、他人の行動と同じ行動をとってしまうという説。

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