過去の記録

□友垣
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これは白き頭巾を纏いし男の話


「心にも あらで浮き世に ながらえば 恋しかるべき 夜半の月かな」
古の天皇である三条院が詠んだ歌。
目がどんどん見えなくなっていき、権力も無く心細かった帝の魂の叫び。
初めて知った時は分からなかったが、目が見えなくなっていく今の私には此の歌に込められた気持ちが分かる。
月を見て酒を呑む。
それはうつろいゆく自然を肌で感じたかったからだ。
目が見える内に見られる物を見ておこう。 これは病を患ったと知った時に決めた事。
視覚に頼って生きている人にとって目が見えなくなっていくのは恐ろしい事。
それは患った者にだけ分かる辛さ。
月の明かりは闇を照らす。
見えなくなれば、闇が全てを覆う。
記憶の中にある月は物哀しさを呼ぶだろうか?それとも、この世にも希望があると励まされるのだろうか? 帝、貴方はどう思われたのでしょうか?










「吉継!」
響いたのは能吏と名高い男の声。

「薄着でこんな所にいたら風邪をひくぞ。
全く、お前はもっと己の身を大事にしろ。これでもかけてろ。」
不器用な友の彼ながらの優しさ。

心も暖まった気がした。
私には身を案じてくれる友がいる。
だったら僅かながらも残されている時間、精一杯楽しもうじゃないか。





たとえ目の前に闇が覆っても、心の闇はないだろう。


何故なら私には暗闇を照らす月がついているのだから。

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