時癒しの雪童

□ぼくの好きな音
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「若ーっ」

ほら、ぼくの大好きな音がする。

「若ーっ何処ですかーっ」

ぱたぱたと走り回る音。
僕の大好きな音。

「…っもぅ、何処に行ったのかしら…若…」

ねぇ気づいて。
気づいて…。

「……若?」

そっと…物陰に蹲るぼくを覗き込む…っ!

「いまだっ!」

「ぇ!?きゃぁっ!!」

がさっと音がして、ぼくの掛け声と共に木の上から大きな籠が降って来る。
それは丁度、ぼくを覗き込んでいた彼女の真上に落っこちてきて…。

「雪女GET!ホント、ドジだなぁ」

「わ…若っ!?なんですかこれっ」

籠の中でわたわたと慌てる雪女。
怒るか、慌てるかどっちかにしたらいいのに…って思いながら、そのコロコロ変わる表情が大好きで…やっぱり悪戯をするなら雪女だよなって思うんだ。

「出してください!若!」

「だーめ!せっかく捕まえたんだもん、こうしておかないと雪女…また洗濯とかご飯つくりに行っちゃうだろ?僕と遊ぶって約束しないと出してやらないんだ」

「若っ…ですが…」

「だーめ!ぼくと遊ぶの!じゃなきゃ出してやんない!!」

今日こそは絶対!
いっつも用事があるっていなくなっちゃうんだもん。
ぼくは雪女と遊びたいんだ!

「っ!…今日は若のお好きなハンバーグにいたしましょう」

「っ……だめっ!ぼくは雪女がいいの!」

「若……」

ハンバーグなんかでつられるもんか!
そんなので惑わされないぞ!
今日こそは雪女といーっぱい遊ぶんだから!!

「若…あの…」

「そうだ!雪降らせてよ!かまくら作ろう!ね、いいでしょ?」

「まだ秋口ですよ?」

「いいの!」

本当はかまくらなんてどうでもよくって、ただずーっと雪女と一緒に居たいんだ。

「ね、遊ぼう?」

傍にいて。
ぼくの傍にいてよ。

「若…」

「いやだよ!約束しなきゃ出してやんない!ぜーったい出してやんないんだからね!!」

「……わかりました、遊びましょう」

「ホントっ!?」

やった!
これでずっと一緒にいられる!
何をして遊ぼう…かまくらも作りたいけどやっぱりかくれんぼかな……それとも…。

「ですが今すぐという訳には行きません」

「ぇ?なんでっ!遊ぶって言ったじゃん!!」

「明日必ずやお約束をお守りします…」

雪女が籠の中からじっとぼくを見た。
とっても真剣な眼…そんなの子どものぼくにだって分かるよ。
とっても綺麗な眼なんだ。

でも…すごく嫌な感じがするんだ。
お腹の辺りがムカムカする感じ…。

「なんだよそれ!やだよ、明日もそうやって遊んでくれない気でしょ!?」

「嘘ではありません………………証に『名』を」

「証って…証拠のこと?『名』って何?雪女は雪女でしょ?」

雪女があまりに真剣な眼で言うから……気になった。
すごく大切な事の様な気がしたんだ。

「『名』は魂の一部といいます、若が『リクオ』様という『お名前』をお持ちのように、雪女(わたし)もまた『名』を持つのです」

「雪女の名前?」

「えぇ、若…その通りです」

雪女がにっこりと笑った。
ぼくはその笑い顔がすっごく好きだ。
…困った顔も、怒った顔も好きだけど……笑ってる顔が一番好き……だから……。

「すごく大事なもの…なんだよね?」

「その通りです、若」

「…教えて―――」



「『氷麗』」


「つらら?」

「えぇ…そうです、若…お約束します、この『氷麗』明日こそは必ずや若のご期待に応えて見せましょう」

雪女が……『氷麗』がすっごく綺麗に見えた。
誇りとか…よろこびとか…今のぼくには良く分からないけど…でもその時の『氷麗』は本当に綺麗で…。

「……もう一個!」

「ぇ?」

『氷麗』が籠の中できょとんとしてる。
ぼくはにんまり笑った。

「ぼくとふたりだけの時はぼくの事『リクオ』って呼ぶんだ!ぼくもふたりの時だけ『氷麗』って呼ぶから、ぼくと『氷麗』の秘密!大事なものだもんね、いいでしょ?」

ふたりだけの秘密。
ぼくと『氷麗』だけの秘密っ!

「そんな!畏れ多いっ若のお名前をお呼びするなんて!」

「呼んでくれなきゃ出してやんないぞ!ね?いいでしょ『氷麗』」

『氷麗』が困った顔を真っ赤にして籠の中できょろきょろしてる。
それから……意を決してとか、意味は分からないけど……何かを決めたようにすっとぼくの方を見た。


「えぇ…畏まりました、リクオ様」



僕の大好きな音。
ぼくを呼ぶ『氷麗』の声―――――。


リクつらを書きたかったんです。
リクオ8歳以前のつもり。
悪戯の盛り…つらら、苦肉の策と言ったところでしょうか…。
[2010.11.22]


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