時癒しの雪童

□古の伝説編
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白の少女は三つの足を持つ鴉に導かれ、野を越え、山を越え、谷を越え、妖の道も、人の道も越え……その地へと辿りつく。

深い森の中。
そこにあったのは『その者』の眠る場所。
小さく…しっかりとした墓。

白の少女は涙を零した。



「何をしてる?」


警戒心を隠さずそう言ったのはひとりの女性。
女性は白の少女が…人ならざる者だと悟る。

その肌の、髪の白さ。

その眼の紅さ。

何よりその存在感と…三つの足の鴉。


「咲鬼(しょうき)の友か?」


女性が尋ねると白の少女は「否」と答えた。


「咲鬼の妹御か?」


女性が尋ねると白の少女は「是」と答えた。

女性は白の少女の言葉を信じた。
女性は白の少女を疑う余地などなかった。

それほどまでにその者…咲鬼と白の少女は似ていた。

女性は語った。

咲鬼との出会いを。
咲鬼が此処に眠るに至った理由を。

咲鬼の知りうる総てを。

白の少女は静かに聞き入った。





三つの足の鴉が咲鬼を導いてきた事。

その女性の一族、陰陽師奄美家の醜き家督相続の争いに終止符を打った事。

都に現れし鵺を名乗る妖怪よりその命と引き換えに奄美家を護った事。

そして咲鬼の遺言を。





総てを話し終えたとき、白の少女は立ち上がり一本の木の枝を振るった。

女性は知っていた。
それが咲鬼にとっての武器であり、腕であり、足であった事を。

女性は知っていた。
それが白の少女にとっての武器であり、腕であり、足である事を。


少女のそれに反応するように、咲鬼の墓から何かが這い出してきた。

それは咲鬼の骨だった。
咲鬼の骨はまるで生きているかのように立ち上がった。

少女はその頭蓋骨を愛おしげに抱き締めた。


ふわりと風が吹き、少女の服がなびいたかと思うと、頭蓋骨以外の骨はその服の中へと消えていた。

「連れて帰る」

少女は涙を流しながら微笑み、そう言った。

女性は知っていた。
それが咲鬼の本当の…一番の願いであったという事を。

女性は「是」と答えた。
しかし…と、女性は問うた。

その鴉は何処で出逢った?と。

少女は答えた。
彼の優しき兄妹の事を。






「見てや」

白の少女が言う。
女性がその先を見た。

そこには青々と広がる空と、輝く太陽…、白く大きな翼の様な雲が美しくも雄大に広がっていた。

[3]

千年前話。
『混合』って観点で必要だったんですよ。
此処。
次は四百年前話…かな?
[2011.1.14]

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