時癒しの雪童

□古の伝説編
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まるで太陽の様な暖かさで…その手は、傷を…病を…癒してくれる。

「ありがとうございます…珱姫様」

もう何人目になるだろうか…先ほどまで異様なほどに腫れ上がった腕を抱え…その痛みに耐えていた男。
その腕は今や何処からどう見ても普通の腕だ。
男は何度も何度も頭を下げ感謝を伝えた。

「珱姫、少し休んではいかがか?」

「ありがとうございます…でも、もう少しだけやらせてください」

秋姫の言葉に笑みで答えつつ珱姫は治癒を続けた。

此処は都の中でも貧しいとされる者たちが住まう場所。
金がなく医者にすらかかれない者たちの暮らす地。

そこへ珱姫はユメと秋姫と共に訪れた。
否。
珱姫が望んだ事だ。
自分の力を必要とする者達がいるところへ行きたいと。
たった一日でも、どれほどの人間が救えるか……。

「珱姫は欲がないなぁ…」

そんな事を呟きながらユメは幼いなりに珱姫の手伝いに精を出す。

珱姫のその笑顔が…喜びで満ち溢れている。
本来なら分け隔てなく…そう神や御仏の様な暖かさで…人を癒す。
それが珱姫の喜びなのであろう。

あのような屋敷に閉じ込められ、その力を金のために行使させられるなど…あの優しき姫にとってどれほど苦痛か…。

「珱姫!この子でこの辺りは終いだ」

ユメが連れて来たのは片足が真っ赤に晴れ上がり、そのうち数箇所には膿が溜まっている。
肌の一部が鱗の様にさえ見える。

あれは疫病神の類の呪い……。
秋姫は立ち上がり、そっと珱姫の傍らに立った。

痛い、痛いと泣きじゃくる子を珱姫は優しく撫で…その暖かな手を痛がる患部へと伸ばす。

「もう大丈夫よ」

その言葉と共に患部は元の…人の足へと戻っていた。

やはり…と秋姫は目を細めた。










「今日は本当にありがとうございました…せっかくお越しくださったのに…私のわがままにつき合わせてしまいまして…」

時は夕刻。
場所は珱姫の部屋の前。
太陽が最後の一仕事とばかりに空を紅に染めていた。

「気にするな!ユメは珱姫の笑顔が好きだ…また来る!なっ秋姫?」

「ユメが手習いを真面目に受け、己の任を果たしてくれるのであればいつでも」

ユメは秋姫の肩に腰を下ろした。

「また遊ぼうな、珱姫」

「はい、ユメ様」

ふわり……風が吹き…次の瞬間、ユメと秋姫は珱姫の前から姿を消していた。

ふわりと現れ…ふわりと消える…不思議なふたり組み。
それでもふたりの気配は穏やかで珱姫はとても好きだった。

「珱姫!こんな所におったのか!」

バタバタと走りよってくる父。
そんな父に珱姫は微笑んだ。

「父上、どうなさいましたか?」

ふと、珱姫は父の後ろに見慣れぬ男が立っているのに気がついた。
まるでお坊さんのような男の人……。

「どうしたも、こうしたもない…こんな時勢だ…珱姫、お前に護衛をつけることにした……陰陽師花開院家の花開院是光殿じゃ」










「なぁ秋姫」

「なんだ?ユメ」

ユメは秋姫の肩に腰を下ろしたまま何処までも広がる大地を見下ろした。

「珱姫は神の血を引いているのか?」

秋姫はぴくりと反応した。
ユメにはそれだけで十分だった。

「やはり…疫病神の病(呪い)を癒すなど古の神の血でも引かねばああも簡単にできることではない……京の都には生き胆好きの妖が溢れている……気をつけないとな…」

珱姫に土産と貰った桜餅をほうばりながらユメは呟く。

「それに恩を仇で返す訳には行くまい……咲鬼の事も…秋姫、お前の母上の事も……無論、一人の陰陽師としても見て見ぬ振りも出来ぬ…な」

やはり気がついていたか……。
秋姫は末恐ろしい子だと…心の中で微笑んだ。
[5]

ホントに三歳なんだろうか?と思えるくらいの最強幼女ユメ。
さくさく進めて早く三代目話に持って行きたいなぁ。
[2011.1.18]

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