噺
□初雪(妹太)
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筆を持つ手を止めて、四角く切り取られた窓の外に目をやる。
朝方から日の光を覆い隠すように広がる鈍色の雲は更に重くなり、今にも一雨降りそうな雰囲気だ。
―こんな日は仕事もはかどらないな。
終わりそうにない書類の山と窓の外を交互に見比べ、思い立ったように筆を置きその場を飛び出した。
冷たい廊下は足の裏から熱を奪ってゆく。
が、それすらも気にならないほどに僕の心は高揚していた。
ただ彼に会いたい一心で……
真っすぐ伸びた廊下の角を曲がると、探していた青ジャージが目に飛び込んできた。
速度を緩め、縁側に腰掛ける太子にゆっくりと近づく。
すると、声を掛けるよりも先に太子が気付いた。
「おぉ、妹子じゃん!って、今は仕事してる時間だろ?サボりなんて上に言い付けてやるぞ」
「……太子もでしょう。馬子様に言い付けますよ、馬子キッスで凝らしめて下さいって」
冗談に冗談で返すと、「アレはやだなぁ〜」と苦笑いを浮かべ笑った。
「まぁ、こんな天気じゃ仕事なんてはかどらないだろ?」