starry☆sky
□間接キス
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屋上庭園。只今の時間は午後8時。隣には私服の先輩。僕の片手には寒いなと思って自動販売機で買った温かい缶コーヒーがある。
「あ、いいなー缶コーヒー」
「欲しいんですか?」
「くれるの?」
「目の前に自販機あるじゃないですか」
「梓おごってよ」
「すいません。生憎持ち合わせがなくて」
「歩くたびにお金の音がするんだけど」
冬はよく星が見えるから、そういって先輩は僕を天体観測に誘ってくれた。宮地たちも誘う?ときかれたけでど先輩と2人きりがよかったから僕は先輩と2人がいいですと正直に言ってみた。
「やっぱ冬の星座すごいね。どの季節の星座も好きだけど」
「寒いけどよく見えるんですよね」
「うんうん」
僕らの真上にはオリオン座。その左下のほうにはおおいぬ座のシリウスが輝いている。
だんだん温かくなくなってきた缶コーヒーを開けて口に運ぶ。口の中にほろ苦いコーヒーの味が広がる。
「・・・」
「そんなに欲しいなら買えばいいじゃないですか」
「お金もってないもん」
僕の片手に納まっているコーヒーをじっと見つけてくる先輩に一言声を掛けてみた。この缶コーヒーのぬくもりを求めているのか、それとも只単にコーヒーが飲みたいだけなのか・・・。どうなんだろ、先輩が考えていることはさっぱり分からないな。
あ、
「先輩、そんなに欲しいんですか?」
「うん」
「じゃあ一口どうぞ」
「え、いいの?ありがとう」
僕の手からコーヒーが離れていって先輩の手に収まって、コーヒーが先輩の口の中に入っていく。
その姿を僕は横でじっと見つめる。
「美味しかったーありがと梓」
「いーえ、どういたしまして」
コーヒーが僕の手に戻ってきた。僕もまた一口コーヒーを口に含んでごくん、と飲み込む。
「先輩。さっきの間接キスですよね?」
「え!?」
「だって僕が飲んだ後に先輩も飲んだでしょう?ほら、間接キスじゃないですか」
「あああ梓、もしかして、わざと?」
「さあ、どうでしょう」
くすくすを笑って先輩をはぐらかしてみる。先輩の頬は赤くなっていて恥ずかしさを隠せていないようだった。僕より年上なのに僕より子供っぽいところが幾つもある先輩だなあと思ってしまう。まあそういうとことが可愛いのだけれど。
「ねえ先輩」
「・・・何よ」
「いつか、僕が先輩の唇にキスできる日が来ますか?」
「・・・梓?」
「先輩、その唇にキスできるのは僕だけですよね?」
先輩の頬に手を置いてまっすぐ先輩の目を見つめる。
「僕以外としたら、どうなるかわかりませんよ?」
「・・・梓、どうしたの?」
少しだけ、ほんの少しだけ、先輩の目に恐怖の色が浮かぶのが見えてしまった。僕は何をしてるんだ。
「すみません。おかしなこといっちゃって。忘れてください」
「・・・?」
先輩の頬から手を離してその手をポケットに入れる。先輩のぬくもりが少し残っている手を。
「先輩、これ上げます」
「あ、ありがと」
飲みかけの缶コーヒー、先輩と間接キスをしたコーヒーを先輩に上げる。先輩がちょっとたじろぎながら僕を見てきたけれどいつもの僕だと思って普通に飲んでくれた。
ねえ先輩、その唇は僕だけのものですよ?
間接キスでも、キスには変わりないんですから。
僕とキスをした先輩は、もう僕のものです。
これからどんどん僕色に染まっていってくださいね?先輩。
間接キス
(缶コーヒーのくれた間接キスは一生忘れられないもので、僕と先輩をつなぐ大事な役割をしてくれた)
091214
梓と冬まであと9日!ファンブックまであと3日!