†MAIN†

□惚れた人-後編-
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あれから一週間。
今日もまた、いつもと変わらぬ朝。いつも通りの時間に起き、顔を洗うべく、いつも通りに洗面所へと向かう。
蛇口を力一杯捻って水を出しその下に手を出せば、掌で水が勢いよく跳ねて辺りと、足元までもを濡らした。

柔軟剤のよく利いたタオルで水気を取り、その顔を鏡に映す。

いつもと変わらぬ自分の顔。
その、映った自分に

「今日は定例会議、か…」

確認するよう今日の予定を小さく告げた。



あの、一週間前の夜。
“酔った勢い”と言うグリムジョーと、お互いもう何も出なくなるまで繋がりあった。
様子のおかしいグリムジョーの誘い文句で始まった行為。
意味を見出だせないその行為に苛立ち、整った綺麗な顔を汚した。
掻き乱された内情をぶつけるように卑劣な言葉でグリムジョーを蔑み、痴態を促した。
グリムジョーは嫌な顔をせず俺の言葉に従い、準備が整うと自ら俺に跨がり腰を落して己の快楽を満たすためだけのように激しく動いた。
その様を下から見ていて、込み上げる虚しさが体の熱を奪いバカバカしくなって行為を止めさせようとした時、瞳が捕らえたのは涙を流すグリムジョーだった。

 
『なぜ泣く。』

問わなくてもよい問い。

『俺が藍染様じゃないからか』

興ざめだ、と言い棄て、部屋から追い出してしまえばよいことだった。

『なぜ俺を選んだ』

でもそうしなかったのは…きっと全てが、必然の問いだったから。




グリムジョーからの告白で一連の行為の意味が繋がり、嬉しさと呼び起こされた自分の想いをグリムジョーの体にぶつけた。
息もできないほど熱く口付け、何度も何度もその名を呼び、グリムジョーの体内を俺で満たした。
そうして最後、グリムジョーが果てて気を失ったその額にキスをして、「明日目が覚めたら一番に愛を告げよう」そう心に誓い、俺も意識を手放した。


しかし、目が覚めた時にはもう隣りに愛しい姿はなく、シーツが僅かにその温もりを残しているだけだった。





「グリムジョーはどこだ。」
グリムジョーの従属官、イールフォルトとディ・ロイを捕まえて聞いたのは、定例会議を明日に控えた昨日。
どこを探しても見つからず、霊圧も感じられない。
不安ばかりが募り、それでも誰彼構わず聞く訳にもいかず、選んだのがいつもグリムジョーと親しくしていたこの二人だった。

二人は俺の問いにあからさまにその態度を変えた。
『知っている』と無言に答える二人に

「どこにいる。言え。」

十刃の霊圧を当て命令すると、呼吸を乱しながら

「…藍染のところだよ、兄弟…」

イールフォルトが小さな声で答えたそれに愕然とした。

グリムジョーを探す最中、呼び出されて二度訪れた主の部屋。もちろん二度ともグリムジョーの霊圧を探ったが、一欠片も感じなかったのに…!!
俺の霊圧に膝から崩れていたディ・ロイが絞り出すように言葉を発した。

「お前十刃だろ…」
「よせ、ディ・ロイ!」

諫めたイールフォルトを振り払って俺を睨み上げ、言葉を続けた。

「お前十刃なんだからグリムジョーを助けろよ!!!」
「どういう意味だ。」
「藍染に勝てる十刃はいねぇってグリムジョーは言うけど、強ぇから十刃なんだろ!!それにっ…!!」
「止めろ!ディ・ロイっ!!」
「それにグリムジョーのこと好きなんだろ!!だったらなんとかしてグリムジョーを助けろよ!!!グリムジョーを……うっ…」
 
噛み付くように言って泣き崩れたディ・ロイ。
(泣きたいのはこっちだ…)
腹の中で呟く。
二人から聞いた事に動揺は必至で、それでも確かめなくてはいけないことの為に冷静を装い開口した。

「誰から聞いた。」
「なに、を、だよっ…ヒック…」
「貴様が今言ったことだ。」
「なんだ、よ、ヒック…」
「だから貴様が今最後に言った…」
「グリムジョーだよ、兄弟…」

しゃくりあげながら答えるディ・ロイに変わってイールフォルトが俺の最後の言葉と被せて言った。

「グリムジョー、だと?」
「あぁ…すごい嬉しそうに『相思相愛だった』って…」

耳を疑った。
グリムジョーには俺の気持ちは言わなかった。
尤も、行為に想いを込めたことは事実。言わなかったのは、快楽に任せて言っていると思われたくなかったから。
きちんとグリムジョーの水色の瞳を見て言いたいと思ったから。

(言わずとも伝わったか…)

喜びを感じた刹那。

「そう言って、藍染んトコ行ったっきりなんだよ…」


言葉はおろか、感情すら削り取られた気がした。
ディ・ロイの啜り泣きが響く廊下で、俺は動くことができず、無様に立ち尽くすだけだった。




 
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