勇シン短編1

□魔法の料理
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恋人の渾身の手料理をひとくち食べて、それがとんでもなく摩訶不思議な味だったら、どうする?




どうするんだ。





誰か、教えろ。








「さあ、出来たわ!今日は初めて作ったグリーンソースを和えてみたのよ。

どうぞ、召し上がれ」


グリーンソースという名の割には緑色じゃないことに、すこしも疑問を抱かなかったかと言えば嘘になる。

けど、料理なんて見た目で味が決まる訳じゃないし、大体があいつの作る飯には、総じて造形美というものがない。

いつもぐちゃっとしている。

いや、ぐちゃっとは表現が悪いな。

ふわっとしている。

いや、ふわっとはしてないな。どっちかといえばどろっと……まあいいや。

そんなわけで、恐る恐るスプーンを突っ込んで、正体不明の謎の物質を思い切って口に入れるまで、

俺はいつもその日の献立の食材がなんなのかすら、まったく解らない(時々、口に入れても解らない)。

ある意味冒険だ。

冒険の旅はもう終わったけど、テーブルと椅子の上で毎日見果てぬ冒険だ。

けど、知ってるんだ。

このはぐれメタルみたいな(これ、ずばりな表現だな)謎の料理のために、あいつが何時間も台所で格闘していたこと。

手に切り傷をたくさんこしらえて、火傷して、なぜか額にでかいたんこぶまで作ってたこと。

……最近の料理ってのは、頭突きでも使うのか?

とにかく、あいつの苦労と努力の賜物が、このはぐれメタル……もとい、ふわっとどろっとした料理というわけだ。

緑じゃないグリーンソース。

たとえ、はぐれメタルそのものだとしたって食ってやる。

ある一時期、俺は食い物を味わう力を失くした。

なにを口にしても味がしなくて、食卓から立ち昇る温かい湯気を見るのさえ嫌だった。

食べたい、という気持ちはそのまま、生きたい、という気持ちの表裏。

命をはぐくむ食べ物を身体に入れる幸せを俺に取り戻してくれたのは、あいつなんだ。

だから食ってやる。

どんな味だってかかって来いだ。

気付かれないように鼻をつまむとか、水で一気に流し込むとか、対処法は色々あるしな。

それにどんなにまずい……いや、個性的な料理を出されたって、最後はちゃんととっておきのデザートがあるから平気だ。

世界じゅうのどんな美味い料理より、俺が食べたいのはお前なんだ。



シンシア。


お前が俺の生きる希望。


俺の命。



……なんて、あいつには口が裂けても言わない。



言わないけどな!





―FIN―




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