コラボ作品の部屋

□誰がための?
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 誰が為の?

 地球滅亡の危機に際し、魔界の住人が多く人間に存在を知られてしまったにもかかわらず、未曾有の大災害の中では騒ぎ立てる余裕もなかったと見え、人間界では大きな混乱も起きずに収拾を見た。
 逆に人間の前に姿を現し力を振るったのが、明かな異形の者達だったのが効をそうしたのかもしれない。
 人間界にはあれから世界的なオカルトブームが訪れていたが、もはやそれは蘭世たちの手を離れた次元の話である。

 世界の危機が去り、揺れていた娘の気持ちも落ち着き(父親である夫にしてみれば手放しで喜ぶという気分にはなれないだろうが)収まるべきところにすべてが丸く収まった。
 さらにめでたいのは、長男と同棲中の彼女との間に、新しい命が芽生えたということ!
 王位継承権第二位のココと、王位継承を放棄したとはいえ現王の兄の長子である卓との婚姻が、そう簡単に認められるものではないと、魔界の宮廷事情を知る望里や椎羅であれば心配したことだろう。
 はじめから、二人の気持ち等尊重せずに、近すぎる血縁と双方の立場を、まわりの大人が説明し、理解させるべきだったのだと。
 しかし蘭世と俊は、卓とココの気持ちを尊重した。
 自身がそうであったように。立場や理屈を抜きに、「ひとを愛すること」に重きを置いた。
 結果が正しかったのかはわからない。
 しかし何にせよ、めでたくも尊い血が、次代に繋がったのは確かである。
 呪われた双子の王子の、互いの長子が結ばれて、ひとつになった、赤子。
 運命はその赤子に、いったい如何なる試練を用意しているか。
 俊は、見守るつもりでいる。
 無責任ととられようと、自分の運命は自分で切り開かねばならぬ。周囲の大人が、子の為すことに一々手を出すべきではない。
 辛くとも、歯痒くとも、ただ、見守る。見守ることしか出来ない。

 世界各地の復興ニュースに並んで、未確認生物の発見情報が紙面を飾る。
 新聞記事を追いながら、俊は全く別の、これからの事を考えていた。
 そして他方で、鼻歌を歌いながら同じようにこれからのことについて思案を巡らせている妻の方へも意識を向ける。
 蘭世は先程から、新しい壁紙にしてお嫁さんを迎えたいだの、キッチンに二人並んで料理をするのが夢だった、ココは妊婦であることだし、ついでにリフォームしたらどうかと浮かれ調子で夢を語っているのだ。

「ね、あなた♪」

 俊は、新聞から目をあげぬまま、ひそかに小さくため息をついた。

「蘭世」

 歌を止めて、きらきらと期待に目を輝かせた蘭世が俊を覗き込む。
 俊は相変わらず紙面を見つめたままだ。一瞬、ちら、と冷めた目で妻を見る。

「おまえが嫁に行くのか?」

 だいたい、まだ家には愛良がいる。一緒に暮らすと決まったわけでもあるまいに。

 さすがにそこまで言うのは気が引けた。
 それでも、蘭世のお調子者モードに、水を差すには十分だったようだ。

「ま、とりあえず」

 エプロンのすそをもじもじやっていた蘭世は、拗ねた視線を俊に向けた。

「今日の晩飯に呼んでやったらどうだ」

 途端に蘭世の顔が輝く。

「うん!」

 頷き、子供の様に電話にスキップしていく。

 おれも大概甘いな、と内心で苦笑しつつ、俊は緩んだ頬を紙面に隠した。
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