導かれし者たちの短編

□ドラクエ4字書きさんに100のお題・2
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51・期待はずれ


「クリフト」

「はい、姫様」

「わたし、初めてだったの」

「は、はい」

「これまでずっと、「これ」は一体どんななんだろうってあれこれ想像していたけれど……こんなふうだったのね」

「……あの」

「なあに」

「そのですね」

「だから、なによ」

「ひ、姫様は、期待はずれでしたのでしょうか」

「なにが?」

「で、ですからその、なんと言いますか……こここ今回の、わたしとのこの一件が」

「そんなことないわ」

「では……なぜ、そのように寂しそうなお顔を」

「だって、離れちゃったじゃない」

「え?」

「クリフト、終わるとすぐに隣に離れちゃったじゃない。わたし、「これ」は朝の太陽が昇るまでふたりでずーっとくっついていて、ふたごのさくらんぼみたいに仲良く繋がっているものなんだと思ってた」

「そ、そ、そうなのですか」

「違うの?」

「えっ?そ……それは、申し訳ありませんがわたしも不勉強ゆえ、なにが正しいのか違うのかはよくわかりかねますが……人によるのではないでしょうか」

「じゃあ、全員ではないけれど、朝までずっとそうしている恋人たちも中にはいるってことなのね」

「そうですね……聞いて回ったわけではないので断定は出来ませんが、あるいは。しかしそれには男性側にかなりの努力が必要でしょう」

「努力?どうして?」

「そ、それはその……、そもそも瞬発力と持続力というものは、得てして比例し難いものだからです」

「どういうこと?」

「例えばいかに俊足を誇る狼とて、何時間もずっと全速力で走り続けることは出来ません」

「そうでしょうね」

「人も、やはり同じ」

「そうね」

「つまり、そういうことです」

「もう!なにを言ってるのかさっぱりわからないわ」

「つ、つまりですね……人が心身ともに愛情をあますことなく相手に伝えるためには、時として心のみならず、並々ならぬ体の強さも必要であるということです」

「わたし、体は十分強いわよ」

「姫様おひとりがお強くても駄目なのです。むしろ強さが必要なのは、わたしのほうで」

「じゃあ、お前も一緒に武術の鍛練する?」

「しかし、いとしい姫様のお望みを叶えるためであればこのクリフト、なんとしてもご期待に応えるべく出来得る限り尽力させて頂く所存」

「ありがと」

「ということで……もう一度、仕切り直しのお願いをさせて頂けますか」

「なんの仕切り直……きゃっ!」

「………」

「………」

「……次は、決して期待はずれにはさせません」

「期待はずれなんて、さっきも思わなかったわ。それに、待って……そんなふうにしたら、苦しくてとても息が出来ない」

「大丈夫です。唇を互いに少しずつずらせば、このまま話すことも、息をすることだって」

「……本当。物知りなのね」

「さっき、そうすればいいのだと気づいたのです」

「そうやって経験するたびに、人はだんだん「これ」の分かち合い方について学んでゆくのね」

「姫様の息は、とても甘い。花びら入りの砂糖菓子の香りで、食べてしまいたいほどだ」

「……馬鹿」

「お慕いしています、アリーナ様。貴女の全部をわたしに下さい。

いとしい貴女の唇も、髪も、頬も、こぼれる吐息までわたしのもの」

「……クリフト、お願いよ。今度はひとときも離れないで。ずっと触れていて。

ずっとずっと朝まで……わたしと」

「仰せのままに。アリーナ様」

「クリフト」

「はい」


これからずっと、覚えていてね。すこしも離れないで、朝まで抱きしめて、深く強く繋がって。


だって、こんなにも


愛 し て る 。



―FIN―




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