勇シン短編1

□あなたがくれたプレゼント
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その夜、頭の後ろで腕を組んでベッドに寝ころんでいた勇者の少年は、ヒバ造りの組み木の天井を見つめながら考え込んでいた。

(愛するお方のお喜びになる姿を見たいと思うのは、ごく当たり前のことではありませんか)

ごく当たり前のことだからこそ、改めて行動に移すのはものすごく難しい。

自分のように先天的に不器用で、うまく感情を表わすことの出来ない人間には、なおさら。

「なに、ぼうっとしているの?」

台所で夕食の後片付けを終えたシンシアが、手巾で濡れた手を拭いながら少年のもとへやって来た。

「おなかいっぱいになったら、もう眠くなっちゃったの?まだ、一番星が出たばかりだよ」

「あー……、いや」

勇者の少年はむくりと起き上がった。

「片づけ、終わったのか」

「うん」

「手伝わなくてごめんな」

「いいんだよ。あなたは昼間の木彫り作りやたくさんの力仕事で、とても疲れているんだもの。

おうちの中のことは全部、わたしに任せてね」

「……」

にっこりとほほえむシンシアを見ていたら、なぜだか急にばつが悪いような気持ちになり、勇者の少年は黙り込んだ。

べつに、力仕事ごときで疲れたりはしない。なんといっても自分はまだ若い。それにシンシアとふたり並んで皿を洗ったり拭いたりするのは、本当は結構好きだった。

だが「手伝うぞ」と声をかけても「ううん、いいよ」と言われると、それ以上強く押し通すことが出来ない。「そうか」となんとなく引き下がってしまう。手伝いたい、という本心とは裏腹に結局いつも、シンシアがあくせく動いているのをぼうっと眺めているだけだ。

(もしかして……俺って、じつはすごくやなヤツなんじゃねーのか?)

優しさを伝えることが出来ない自分は、イコール優しくない人間なのではないか。

心でなにを思っていようと、行動しなくちゃなんの意味もない。そんなのわかっているはずなのに、たったそれだけのことがどうしてうまく出来ないのだろう。

「シンシア」

「なあに?」

いつも、ありがとうな。

俺、お前が好きだ。

言う前にかーっと頬に血が昇った。

「……なんでもない」

「どうしたの?今日のあなた、なんだか変だよ」

シンシアは怪訝そうに首を傾げたが、すぐに笑顔に戻ると勇者の少年の背中に飛びついて腕を回し、子猫のようにじゃれついた。

「でも、そういう所も好き。

わたし、あなたの全部がだーい好き」

ああ、ここにもクリフトと同じ、向こう側の世界の人間がひとりいる。

心に浮かんだ思いを言葉にして伝えることを、一切ためらわずに行動に移す人。こんなふうに生きられたら、きっと人生はもっとずっと楽になるはずなのに。

勇者の少年は頬にかぶさるシンシアの髪の柔らかさにくすぐったげに顔をしかめながら、ひそかに決意した。

愛する者の喜ぶ姿を見たいと思うには、今の自分は言葉も行動も足りなさすぎる。厄介なこの性格上、すぐには改善出来ないかもしれない。だったら自分も、起死回生の一手を使いたい。

(プレゼントだ。俺もクリフトのように、内緒でプレゼントをあげればいいんだ)

自分からシンシアへ、予想もつかないサプライズプレゼント。

……なにをあげよう?
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