勇シン短編1

□勇者の呟き―CAN YOU CALEBRATE?―
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よう。


久し振りだな、クリフト。

この寒いのにこんな山奥まで、お前ひとりでよく来たもんだ。

ああ、俺は元気にやってるよ。

ここも緑が戻り、すっかり綺麗になった。


………。


で、何の用だ。

なんだよ、シンシア。

久し振りに会った大切な仲間に対して、その態度はない?

……そりゃ悪かったな。

遠いサントハイムから、本当によく来てくれた。会えて嬉しいよ。

これでいいか。

なんだよ、シンシアが謝ることなんてないだろ。

女じゃあるまいし、いくら久し振りだからって、手に手を取って再会を喜び合ったり出来るか。

何笑ってるんだ、クリフト。

相変わらずですね、勇者様だって?

俺はもう勇者なんかじゃない。山奥の田舎で暮らす、ただの木彫り職人だよ。

だから勇者って呼ぶな。

これからは名前で呼べ。

そうだ、名前で。

ほら、呼んでみろよクリフト。

「様」はいらない。

呼び捨てでいい。

………。


……あのな。

たかが名前ひとつに、どもりすぎだろ。それに赤くなるなよ、気持ち悪い。

ああ、もうなんでもいい、勇者様でもなんでも。

で、なんの用なんだ。

まさかこの冬にたったひとりで、こんなところまで遊びに来たわけじゃないだろう。

……なんだって?

聞こえねえよ。もっとはっきり、大きな声で言え。


ケケケケコ?


……お前、ニワトリの物真似でもしに来たのか。

ひょっとしてあのエッグラチキーラと、久し振りにまた戦いたくなったなんて言うんじゃないだろうな。

なら付き合ってやってもいいぜ。山奥に引きこもっちゃいるが、毎日剣の稽古は欠かしたことがない。

時々ライアンがやって来ては、腕が鈍ることがないようにと、散々しごいて行くからな。

またいつこの世界に、邪悪が訪れるとも限らない。

俺はその時のための、大事な切り札なんだそうだ。

鍛えた剣技を披露する機会が来ないことを祈りながらも、決して日々の鍛練を怠るなと、いつものおっかない顔で言われたよ。

今なら俺達ふたりだけでも、あのニワトリタマゴ野郎なんか目じゃないぜ。


よし、早速今から行くか。

シンシア、俺の剣どこに置いたっけ。


ん?


なんだ、違うのか。

それなら早く言えよ。

じゃあ一体何しに来たんだ。

珍しくアリーナも一緒じゃないし、何か悩みごとの相談か。

それです、それです?

そうか、お前たち二人も色々あったが、ついに破局したんだな。残念なことだ。


痛てえっ!!!


わ、解ったよ、シンシア。

冗談だよ。悪かったよ。

ちくしょ……いてて……、おい、もったいぶらずにいいかげんさっさと言え!

なんだって?

ケコ?




……結婚?




結婚するのか?アリーナと?


直接自分の口で俺に伝えたくて、急いでひとりでここまでやって来た?


………。



そうか。


……なんだよ。


それだけですか?って、他になにがあるんだ。

よかったじゃないか。

アリーナと結婚するってことは、王になると言うことだろ。

つまり教会を離れるってことだ。

これでやっと、お前の神様神様うるさい繰り言を、聞かなくて済むようになるな。

例えどこにいようとも、わたしの信仰の心は変わらない?

ふん、そりゃ結構なことだ。


それじゃあな。


待って下さいって、しつこいな、なんだよ。


お前と違って俺は忙しいんだ。

明日までにブランカの城下町で売る、笛と机を仕上げなきゃならない。

それじゃ行く。急がないんならゆっくりして行け。



……そうだ、クリフト。



ひとつ言い忘れた。






おめでとう。





幸せになれよ、必ず。





うん、俺は幸せだ。

お前に心配してもらうまでもない。




じゃあな、また。

ああ、いつでも来い。

俺はここにいる。




俺はいつだって、

ここにいるよ。




―FIN―




 

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