コラボ作品の部屋
□命の代償
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命の代償
山を下りて、初めて知ったこと。
里以外にも人が住んでいたこと。
里が田舎だったということ。
里が平和だったということ。
毎日当たり前のように食べて来たものが、無償では手に入らないのだということ。
「そこのお兄さん! お腹空いてない? ちょっと寄って行きなよ!」
愛想のいい女に手招かれるまま店に入り、勧められるままに頷いて出された料理を貪るように食べた。
実際堪え難いほどに腹が減っていたし、初めて食べた街の料理は美味かった。
「いいたべっぷりだねぇ! 見てて気持ちがいいよ」
食べ終えて、ふぅ、と息をつくジークの肩を恰幅の良い女が楽しげに叩いた。
「よし! 兄さんの食べっぷり気に入った! 大負けに負けて、4ゴールドでいいよ」
「…え…?」
不安そうに女を見上げる少年の顔に、女の表情も不安そうに曇る。
「あんたまさか…」
腹が空いていた自分を見兼ねて、女が好意で食事を提供してくれたものだと思っていた。
少年の生まれ育った里はそういうところだったし、少年は今まで、なにかの見返りに金銭を支払ったことがない。ゴールドというものを、みたことすらない。
愛想よく垂れ下がっていた女の眉が見る見る悪鬼羅刹のごとく吊り上がり、毎日の剣の稽古で鍛えられた少年の腕よりも太い腕が少年の襟首を掴みあげた。
「このあたしの店で無銭飲食しようってのかい!」
椅子から強引に立たされて、何度となく胸を突かれながら店の裏口から外に追い出される。
「綺麗な顔して厚かましいね!」
「あの、ごめんなさい。ぼくっ」
平手が張られた。目の前で星が散り、少年はゴミの山に突っ込んだ。
「二度と来んじゃないよ!」
女は倒れたジークの腹を蹴った。それで満足したのか、ふん、と鼻を鳴らして裏口へと戻っていく。大きな音を立てて扉が閉められ、中から鍵をかける音がした。
これが、ジークが里を下りて最初の街ボンモールでの、一番最初に起きた出来事だった。