コラボ作品の部屋

□ずっとずっと一緒にいたのに
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ずっとずっと一緒に居たのに。

こんなに近くであなたを見続けていたのに。

どうして、その想いは見えなかったの?


Love which was not in sight.


麗らかな春の日差しは回廊に降り注ぎ、中庭の木々には寄り添う鳥達が戯れている。

その様子を何とは無しに見ながら回廊を歩いていたアリーナは向こうから歩いてくる男の姿に気付くと思わず身を隠したい衝動に駆られた。

言わずと知れた、アリーナの幼馴染であり、生死を共にする中で絆と愛を育んだ相手、サントハイムの神官クリフトである。

だが、重そうな書類を担ぐクリフトもまたアリーナに気付き、笑みを浮かべた為、アリーナはそれを実行に移す機会を失った。

どうしよう。アリーナは知らず染まる頬を周囲の者達の目から隠すように扇を広げる。恥ずかしい。

城に戻る前なら自分達の周囲には気の合う仲間達と魔物しか側に居なかった。だが、此処は違う。自分達の家族やそれ同然の者、そして兄妹のように仲が良かったものの恋など知らなかった自分の事しか知らない者達で溢れている。

彼等に自分達の恋を知られてはならない。

あくまでも、王女とその臣下。兄妹同然の絆持つ、未来の女王と教父の立場を貫かねばならない。

だが、アリーナは此処でクリフトに対してどのように振舞っていいものか解らなかった。

今まで通り振舞えばいい。答えは明瞭だ。だが、今まで通り、というのは無意識に行っていたものの為、解っているようで解らない。下手をすれば不自然極まりない行動を取ってしまうだろう。

「これはこれは、姫様」

考え込んでいる内にクリフトの方が先に声を掛けてきた。アリーナは叱られた時のように背筋を伸ばす。

「ご機嫌麗しゅう御座いますか?本日は黄素馨(キソケイ)のような鮮やかな黄色の衣装を御召しなのですね。とても素敵です」

クリフトの美麗な言葉にますます顔が赤くなりそうなアリーナは態と機嫌の悪そうな態度を見せる。実際の所、それが今の自分に出来る精一杯の自然な振る舞いだ。

「どうせ褒められる所は衣装だけよね」

クリフトはぷいと横を向くアリーナに一瞬驚いた表情を見せたが、直ぐに否定の言葉を述べる。

「滅相も御座いません。姫様の美しさをより一層引き立てる衣装だと申し上げたかったのです」

良く聞くお世辞だ。だが、クリフトから聞かされるとお世辞と解っていても顔が熱くなる。

「その書類、何処に運ぶの?私が持ってあげるわ」

話題を変えなければ。アリーナはクリフトの持つ書類を強引に引っ手繰る。クリフトは微笑みながら王女が抱え込んでしまった書類に手を伸ばした。

「お優しいですね、姫様。有難う御座います」

そして受け取る素振りの中、顔を寄せ、アリーナの瞳を魅惑的な表情で見つめながら、囁く。

「ですが人目が気になる時には罪な行いですね。今だって貴女を抱きしめたくなる感情を抑えるのは大変だというのに」

「なっ……!」

い、今、平然とした受け答えの中でそんな事を思ったりしているの?!目を見開いたまま絶句し固まるアリーナに「経験の違いが出ましたね。私の方は旅に出る前からこの城で貴女に対し平然とした態度と表情を作る演技をこなしていましたから」と囁いた後、クリフトはくすくす笑いながら再び回廊を歩き始めた。


ずっとずっと一緒に居たのに。

こんなに近くであなたを見続けていたのに。

どうして、その想いは見えなかったの?


アリーナは背の向こうに遠ざかる足音を聞きながら、扇を握る指に力を込める。そうでもしていなければ罪なほどに甘い言葉をさらりと口にする、自分よりも恋の上手を行く彼だけでなく、周囲の者達にまで動揺が知られてしまう。アリーナの衝動を抑える哀れな扇が悲鳴を上げた。


それは彼が見せようとしなかったから。

それは私が見ようとしなかったから。

だがきっと、見えなかった想いは、これから色んな形となって見えてくるのだろう。

見つめ合う私達の距離が縮まる毎に。

少しずつ。




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