導かれし者たちの短編

□Listen to!
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其の弐 Listen to トルネコ



はい、いらっしゃい。何に致しましょう。今日も今日とて、いい品物が揃っておりますよ。

あ、違う?そうですか。

ではこちらかな?いらっしゃいませ。こちらは愛と信頼のゴールド銀行です。どのようなご用件ですか?

え、それも違う?

なんだい、じゃあとっとと帰ってもらおうか!こちとら忙しいんでね!

ほら、ぐずぐずしてると鉄のそろばんで頭をスイカのようにかち割っちまうぞ!

はっはっは!冗談ですよ。そんなに怖がらなくても大丈夫です。

いやね、世界を股にかける商売人たる者、時には啖呵を切る肝の強さも必要かと、こうして時々鉄のそろばんを振り回しては、鏡の前で練習をしているんですよ。

今のところまだ、出番があったことはありませんがね。

はい、ありがたいことに皆さん品の良いお客様ばかりなんです。

で、買い物でも預貯金でもなければ一体、このわたしにどのようなご用件で?

吟遊詩人?なるほどなるほど。歌を作るために話を聞いて回っている、それはご苦労様です。

名前ですか。生まれはレイクナバ、今はエンドールに店を構えるトルネコと言います。

え、旅に出ているのに誰が店をやってるんだ、ですって?

よくぞ聞いてくれました。

わたしには妻と息子がいるんですがね、なんとその妻がたったひとりで切り盛りしてくれているんですな。

ネネと言いまして、しっかり者で器量よし、お金の管理には寸分のゆるみもなく、ひとたび品物を売らせたら必ず定価の一割増で売ってみせるという、なんとも凄腕の持ち主なんです。

ええ、出来た妻ですよ。わたしにはもったいないくらいのね。

こうしてわたしが自由に旅をすることが出来るのも、全てネネのおかげ。

帰る巣があるからこそ鳥は飛び立つことが出来、港があるからこそ船は大海原に乗り出して行ける。

そういうものでしょう?

今は勇者様をお助けし、帰るたびに背が伸びている息子ポポロの成長を楽しみにしながら、世界一の商人を目指して、日々商売の腕を磨く。

そんな毎日ですな。

商売だけがこの旅の目的か?いえいえ、もちろん違いますよ。

ですがわたしにとって商売すると言うことは、命の営みを享受するのと同じ意味を持つことなんです。

考えてもみて下さいよ。

お金を使って物を売り買いするのは、人間だけに与えられた特権。

犬が食べ物を買いますか?馬が欲しいものを手に入れるためにお金を貯めますか?

とかく世間はお金が大事だというと、まるで心が歪んでいるんじゃないかというような眼で見てくる。

でもね、わたしたちの暮らしを支え、命を支えてくれているのはまぎれもなくお金なんです。

人は愛する者を食べさせるために肉を買い、温めるために服を買う。

そして愛する者の命を守るため、懸命に働いてお金を稼ぐ。

だからわたしは稼ぎたい。売りたい。

ネネとポポロを守り、誰かが愛する者を守る橋渡しとなるために、これからもずっと商売を続けていきたい。

そう思っているんですよ。

もちろんがっちり貯め込んで、墓場まで持って行こうなんて思ってやしません。

さっきも言いましたが、お金とはこの世の衣食住を手に入れるためのもの。

死んでしまったらただの紙くず、金貨も銀貨も光るがらくたですからね。

わたしの夢は一生懸命働いてたくさん稼いで、いつかそのお金で世界一の……、おっとっと。

あやうく喋ってしまうところでした。

夢は語れば叶うといいますが、それにしたってあなたは世界のあちこちで歌い継ぐ吟遊詩人だ。

実現してもないうちから、絵空事だけが独り歩きしちゃたまりませんからね。

必ずまた会いに来て下さいよ。

ええ、次お会いする時には必ず夢を叶え、世界一の商人としてあなたの前に現れてみせましょう。

覚えておいて下さい。

夢は願えば叶う。

七つの海と大陸を越え、金銀財宝背中に抱え、両手に掲ぐは誇れし看板、武器も道具も全てこの身に、


進むはわたくし、商人トルネコ。





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