導かれし者たちの短編

□VOICE
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「嫌い嫌いも何とやらと申しますが、貴方様は奔放な女性に対して少し閉鎖的に過ぎます。

マーニャさんは確かに時にわがままで騒がしくはありますが、あのお方の明るさや天真爛漫さが、戦い続きでピリピリしがちな雰囲気をやわらげるのにどれほど役立っているか、

リーダーである貴方がもう少しお心に留めて差し上げないと」

「わかってるさ」

不意に勇者の少年の声が低くなった。

「……けど、あいつには絶対負けたくねえ」

「え?」

「考えてもみろ。おれは今持っているこの魔力を手に入れるため、どれほどの修行を積んできたと思ってるんだ。

村から出されることもなく、シンシア以外の友達も作らず、強い「勇者」になるためだけに、子供の頃から余計なものを全てそぎ落として生きて来た。

けど、あいつはどうだ?酒ばかり飲んで気ままに踊って、カジノに入り浸っちゃ湯水のように金を使って。

それなのになぜか魔法は世界でも指折りの腕前、おれがどんなに訓練しても覚えられなかったメラゾーマやイオナズンを、まるで歌でも歌うみたいに楽々と唱えやがる」

「ははあ……」

クリフトはようやく合点が行ったというように頷いた。

(そうだったのか)

性格が合わないだけにしては、やたらとマーニャに突っ掛かりすぎる勇者の少年を、以前から奇妙に思っていた。

だが不遜な態度の中には彼女への羨望と嫉妬、そして未熟な自分自身への苛立ちも混じっていたことを知り、クリフトは我知らず微笑んで、少年の細い肩を叩いた。

「貴方もなかなか、可愛いとこあるんですね」

「大きなお世話だ」

「もしここがボーイズラブサイトだったら、このまま強引に抱いてしまうところですが」

「や、や、止めろ!!」

「ご安心下さい。残念ながらここはノーマルクリアリサイトです。

わたしの目には健全なる女性、アリーナ様の愛しいお姿しか映っていませんから」

「そ、そうか」

勇者の少年は胸を撫で下ろした。

「なんだかよく解らねえが、助かった」

「しかしこの話の流れでは、間違いなく声の正体はマーニャさんではありませんね。

大体こういった展開では、ほぼ100%実際はそうじゃなかったというオチがついて来るもの……」

クリフトはふと辺りを見回した。

「そういえば、わたしたち以外の男性陣は」

「ヒゲトリオか」

勇者と呼ばれる少年は深いため息をついた。

「きっと誘惑に負けて、女部屋を覗きに行ったんだろう。ライアンやトルネコはともかく、あのブライの爺様までついて行くとは驚きだが。

サカリのついたマーニャとヒゲ踊る狂乱の宴が演じられてないことを、祈るばかりだ」

「止めて下さいよ、気持ちが悪い!

大体ヒゲ踊るってなんですか、ヒゲ踊るって」

「ヒゲのちくちくした感触が好きだ、という女もいるらしいからな」

「なっ、ど……どこで一体そんなことを!?」

「ス○ラに載ってた」

「ス、ス○ラ?!まだ17才のくせに!

せめてプレイ○ーイにしなさい、プレイ○ーイに!」

「あー、なんかだんだん馬鹿馬鹿しくなって来たなー」

勇者の少年は両手を広げてうーんと伸びをした。

「もういいや。どうなろうと知ったことか。大体サカリがつくってことは、心身共に健やかだって証拠なんだよな。

眠い。俺は知らん。寝る!」

「ち、ちょっと、ちょっと!?」

ティッシュを丸めて両耳に突っ込むと、勇者と呼ばれる少年はくるりと背を向け、さっさとベッドに潜ってしまった。

クリフトは唖然と立ちすくみ、途方に暮れてため息をついた。

「全く……貴方が勝手にわたしを起こしたんじゃありませんか。

散々騒いだうえにひとりで寝てしまうなんて、もしボーイズラブサイトだったら体でお仕置するところですがあいにくここは……、

まあいいか」

クリフトは窓辺にそっと歩み寄り、薄い硝子が貼られた窓を少しだけ開いた。

(この騒ぎの中でアリーナ様は、ちゃんとお休みになっておられるのだろうか?)

「あーん、ああーん、あーん!」

相変わらず隣の部屋から絶えまなく聞こえて来る、なまめかしくも甲高い叫び声。

クリフトはふと眉を上げた。

(なんだかこの声、どこかで聞いたことがあるな)

(どこかで……そうだ、春、教会で……)

その時、頭の中に浮かんだパズルがかちりと音をたてて合わさる。

(……そうか!)

クリフトは思わずぽんと手を打って、闇夜に漂う甘くなまめかしい叫び声に、今度は自分から耳をそばだてた。



(オチはもう、ちゃんとついているじゃないか!)
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