導かれし者たちの短編

□未来
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「見ての通り、勇者殿はまだはたちも越えておらぬ子供だ」

ライアンは鍛えた鋼のような声音を張り上げて叫んだ。

「過ちを犯せば叱り、正しき道を示すのは我ら生の先駆者の役目であろう。

女人であるマーニャ殿、ミネア殿、未だ若いアリーナ殿はまだしも、トルネコ殿、クリフト殿、ブライ殿は一体これまで何をしておられたのだ?

いい男丈夫が三人も雁首を揃えて、たかが小僧ひとりに喝を入れることも出来なかったのか?」

「なぜ、喝を入れねばならぬのじゃ!」

船上で操舵番を務めているため、クリフトはこの場におらぬ。トルネコはなにか言いたそうにしていたが、不用意な言葉を控えるように黙っている。

痺れを切らしたブライが、気色ばんで抗弁した。

「なぜ、出会ったばかりの卑しき若造に、わざわざ親のごとく教えを与えねばならぬ。

我らは世界を救う勇者を求めていたのじゃぞ。大人の雷が必要な悪童に説教するため、愛する祖国を離れたのではない!

儂は姫様の従者であって、どこの馬の骨ともしれぬ小僧の世話係ではないのじゃ!」

勇者の少年は反対側を向いたまま、意固地に皆の方を見ようとしなかったが、ブライが続けて発したひとことが耳に入ると、かすかに頬を歪ませた。

「これだから、勇者などという妖しげな存在に付き従うとろくなことがないと、姫に申し上げたのじゃ。

所詮勇者と名乗ってもただの平民、生まれも育ちもはっきりせぬ下賤じゃ。まともな教育を受けておらぬゆえ、このように愚かに成り果てる。

そも、貴きサントハイムの世継ぎであるアリーナ姫に対して度重なる無礼、不敬罪で今すぐ処刑されてもおかしくないのじゃぞ」

「ブライ、お前はなんてことを……!」

「だったらやってみろよ」

急いで止めようとしたアリーナの声よりも大きく、少年の嘲笑う声が船室に響き渡った。

勇者の少年は緑の瞳に、燃えるような怒りをくるめかせて叫んだ。

「処刑でもなんでも、望むところだ。今すぐ俺の首に縄を掛けて牢獄に連れて行け。

お前たちこそ勘違いしてるみたいだが、俺は一度たりとも勇者だなんて名乗った覚えはない。

お前たちの同志になった覚えもない。地獄の帝王が復活しようがなんだろうが、どうだっていい。この世界の行く末なんて知ったことじゃない。

俺が旅をする目的は、ただひとつ」


(デスピサロ様、勇者めを討ち取りました!)


デスピサロを殺すこと。


鼓膜にこびりついて離れないその名前の持ち主を、この世の果てまで追跡し、大切な者が味わった苦しみを何万倍にも返してやること。

「俺には俺の目的がある。いつだって打ち捨ててもらって結構だ。お前らは強い。俺抜きだって、地獄の帝王くらい簡単に倒すことが出来るだろう。

だから俺なんかさっさと放り出して、お前らだけで……」

そこまで言ったとたん、勇者の少年は目を見開いて絶句した。

頭上から、戦士の逞しく鍛え上げた拳が手加減なしで落とされる。

がんという音と共に、脳を貫く痛みが駆け抜け、視界が暗転して一瞬意識が飛ぶ。

呻いて両手で頭を押さえ、テーブルに突っ伏すと、ライアンは呆気に取られた仲間たちに向かって丸めた拳を掲げ、肩をすくめてみせた。

「確かにこれほどのひねくれ者、毎回説教は面倒だな。

だったら言っても聞かぬ我儘小僧には、拳でわからせることにしよう」
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