導かれし者たちの短編

□勇者からの手紙
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よう。

元気にしてるか、クリフト。

俺は元気だ。

…………。

…………。

な、なんて文章で先を続ければいいんだ?手紙なんて書いたことがないから、どうすればいいのかよくわかんねえ。

まあいいや、どうせ読むのはあいつっきりだしな。書きだしの挨拶なんて別にどうだっていい。

なに。

ほんとか、それ。シンシア。

サントハイムの城へ手紙を出したら、安全確認と呪いよけのため、王様のクリフトの手に届くまで数日もの間、大勢の家臣に中身を何度も何度も検閲される?

どうしてお前がそんなこと知ってるんだ。

わたし、アリーナさんと文通をしていて、よくお手紙を出すから?ふーん、お前そんなことやってたのか。

……どうして今まで俺に言わなかったんだ、それ。

なに、そんな細かいことまでいちいちあなたに報告する必要ないでしょ?

お、お前……、そうやって俺に隠しごとするようになったんだな!

信じらんねぇ。子供の時はあれほどなんでも話そうね、わたしたちふたりの間に絶対にひみつはなしだよって言ってたくせに。

赤ん坊が生まれると、オンナってずいぶん変わるよな。

だいたい最近は、なにかにつけて赤ちゃんが先よって言ってばかりで、俺のことは完全にほったらかしで……ふん。

あなたはもう父親なんだから、そんなことくらいで子供っぽくすねないで?

べ、別にすねてねえよ!

……で、なんだっけ。

ああ、そうだ。クリフトに手紙。

そんなに厳しく検閲されるなら、敬語くらい使っといた方がいいな。ただでさえ、山奥の村から届く手紙だ。田舎に住んでるからって、脳味噌まで田舎臭い奴が書いたとは思われたくないもんな。

えーと、前略クリフト様……、と。

手紙の上とはいえ、あいつの名前に様をつけるなんて、なんか嫌な気分だ。

ん、王様に出す手紙だから、前略よりも拝啓の方がいい?

わかった。お前意外と物知りだな、シンシア。

拝啓クリフト様。元気か。

あ、違った。元気ですか。

俺は元気だ……、元気です。シンシアも、こないだ生まれたばかりの俺たちの坊主も元気です。

なに、いきなり近況報告はいけない。拝啓を使う時は、まず冒頭に時候の挨拶を入れないといけない、だって?

くそ、じゃあまた書きなおしか……手紙にもいろいろルールってものがあるんだな。面倒くせーけど、今のあいつは格式に守られた王様なんだ。しょうがないか。

拝啓クリフト様。

このところ、めっきり涼しくなりましたね。山奥の村の木々も美しい紅葉に色づいて来ました。元気ですか。

俺は元気です。シンシアも元気です。生まれたばかりのちいさい坊主も元気です。

突然ですがじつは今度、俺たちの坊主に教会で洗礼を受けさせようということになりました。

俺は神様なんて信じないし、わざわざそんなことしなくてもいいって言ったんですが、シンシアがどうしてもといって聞かないので、だったらお前のところに行こうと思います。

シンシアが言うには、神を貴ぶ心を持つことは大事だそうです。神を愛し、神を強く信じる心を持った子供は、お前のようにまっすぐで正しい人間になれるからだそうです。

俺とシンシアの子供だと、はっきり言って人間の血はかなり薄いし、そんなことが本当に必要なのかどうか解りません。

けど、エルフの血を色濃く持つ小さな坊主がもしもこれから何百年も生きるのなら、半分人間の俺の命は、残念ですが多分それほどはついていけません。

俺の代わりに坊主を守り、坊主の心の支えになるものが必要です。

だからお前のもとへ行って、神の子供たるお前の手づから、坊主に洗礼を受けさせてもらうことにした。

……いや、しました。

この手紙を出してすぐ、俺とシンシアと坊主はサントハイムへ向かいます。

ルーラは使いません。まだ産後間もないシンシアと小さな坊主には、移動魔法は負担です。のんびり歩いて行きます。

休み休み向かって、そうだな、多分二十日はかかるだろう。

だからこの手紙の日付からちょうど二十日後、成り上がりのお前の権力で、客人用の最高の部屋と食事を用意しておけ。坊主のミルクもだ。

それと……俺のぶんのメシに、あんまり野菜は入れるな。

わっ、シンシア、なんだよ。見るなよ。もうほとんど書き上がったよ。

大切な友人への心を込めた感謝の言葉を、ちゃんと文末に添えたの?

わかった、今から書く。

クリフト。

旅が終わってからもずっと、山奥でふたりきりで暮らす俺とシンシアのことを気にかけてくれて、ありがとな。

新しく増えた小さな家族の洗礼を安心して頼める、お前は俺の大切な、し、し、しししししんゆ………、

……やっぱ、止めとこう。

似合わねえ王冠を頭に乗せたお前の阿呆面を、さんざん冷やかしに行ってやる。待ってろ。

それと、王様になったからって、あんまり無理はするなよな。

お前は馬鹿がつく真面目だから、いつもつい頑張りすぎるんだ。

お前はお前のままでいい。

自分以外の人間のためにひたむきに尽くせるお前みたいな奴、きっと一国の王様として悪くないと思う。

それじゃまた後で、この手紙の日付から二十日後に会おう。

……シンシア、見てないな。よし。

最後にもう一度。


いいか、俺のぶんのメシに野菜は入れるな。

インゲンとか、ニンジンとかピーマンとかすげえ嫌いだ。頼む。



じゃあな、クリフト。

また、後できっと会おうな。





−FIN−





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