時代劇

□時代劇9
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仙蔵に押さえられ、なすすべもなく立ち尽くす留三郎の眼前で、白刃が光った。








夥しい量の血が吹き出し、さきほどまでそこに座していた男の身体は、地面に崩れるただの肉の塊となった。







文次郎は死んだ。






「うわぁあぁあぁあぁぁ!!!文次郎ぉぉぉーっ!!!」






処刑場に響く留三郎の叫び声。
全て終わってしまったのだ。目の前の光景は紛れもなく現実。
仙蔵は静かに唇を噛みしめていた。








「文次郎………、せめて私がしっかりと埋葬しよう」






嗚咽をあげながらその場に泣き崩れる留三郎を一瞥すると、係の役人にあとは請け負うと告げ、文次郎の遺体を運ばせた。









まさかこんな日がくるとは思いもしなかった。


切り落とされた文次郎の首を清め整えながら、仙蔵は考えていた。



「やはりお前が死ぬことはなかったんじゃないのか…?」



ポツリ、答えが返ってくるはずのない問いを発して、仙蔵は涙した。



留三郎が処刑されれば良かったと思っているわけではない。


もっと他に道があったのではなかろうか。
誰も傷付かずに済む方法が。



今更考えたところで文次郎がかえってくるわけでもないのに、考えずにはいられなかった。




埋葬するときはあの娘にも報せるべきか…



しかし文次郎はそれを望まないだろう。



とはいえ、いつまでも隠しておくことができるわけではないのだ。
いずれ知ることになる。それならせめて、最後をしっかりと見届けさせ、気持ちの整理をつけさせることがこれからも生き続けなければならない彼女の為なのではないだろうか。

だが、許婚が処刑されたなんて知ったら、あの娘は後追い心中するかもしれない…


先日訪ねた時も、今にも倒れてしまうのでは…というほどやつれていた。

もともと華奢で儚げな雰囲気ではあったが、あの時のあの娘は…あれはどこか死を覚悟した者特有の目をしていた。





仙蔵はしばらくの間どうすべきか考えていたが、やがて結論を出すと出掛ける支度を始めた。



「やはりお前の考えには賛同しかねるよ…文次郎」



寂しげに文次郎の亡骸にそう声をかけると、静かにその場を後にした。





20170613.

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