時代劇

□時代劇@
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潮江文次郎は町の小さな細工物屋に生まれた。

決して裕福ではないが、日々の暮らしに困るほどではなかった。

母親は文次郎が生まれて間もなく亡くなり、父と歳の離れた兄、兄嫁とともに暮らしていた。
幼い文次郎はよく商売道具で遊んでは、父に叱られたものだ。

歳の離れたこの兄は中々よく出来た兄であった。職人としての父親を尊敬しており、自分の仕事にも誇りをもっていたが、ただの町の一細工職人では安定した暮らしは望めない。弟である文次郎にはきちんと学問を修めさせ、お役人のような安定した将来の見込みのある職業につけたいと考えていた。

そんな兄のおかげで、文次郎は学問を修め、見事町の役人として採用されたのであった。
このことを真っ先に兄に報告すると、文次郎の報せを聞いた、兄はそれはそれは喜んだ。




文次郎と同期で、幼い頃から喧嘩仲間だった留三郎という男もまた役人として採用されていた。

部署こそ違えど、昔からの顔なじみである二人はよくつるんでいた。


役人の仕事についてから知り合った友人もいた。名を仙蔵という男は、文次郎の上司の親戚だとかいう話で、役人になれたのも縁故によるものだと聞いた。

始めはいけ好かない男だと感じていた文次郎だが、ある事をきっかけに信頼のできる男だと認めるのであった。



さて、役人として仕事についてから幾年か経ち、上司からも一目置かれるようになった。

そんな文次郎に、縁談の話が持ち上がった。

あまり気乗りしない話であったが、直属の上司の知人の娘で、断りにくかった。

上司の顔をたて、とりあえず見合いだけはして断ろうと考えていた。

見合い当日。


上司の知人の娘というのは、隣町の呉服問屋の一人娘で、歳は十七、文次郎より六つも下であった。

うまいこと断ろうとしていた文次郎であったが、一目見て気が変わってしまった。

白く滑らかな肌、薄く桃色に色付いた頬、切れ長な目は涼しげだがどことなく儚げで、少しぷっくりした唇は顔全体の印象に似つかわしくなく、可愛らしい。

歳の割りに大人びていて、何というか、歳に似合わぬ色気のようなものが感じられた。




色恋沙汰には縁もなく、また興味もなかった文次郎だが、一目見ただけでこの娘を妻にしたいと思ってしまっていた。


見合いは中々良い雰囲気で終わった。


相手の方も文次郎のことが気に入ったらしく、縁談はすぐに纏まったのであった。


20090602

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