短編
□ほんの悪戯心
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ザァーー…
せっかく授業が休みだというのにこのドシャ降り。
冬の雨はとにかく冷える。この雨の中外を出歩くなんて、風邪を引きにいくようなものだ。
町へ繰り出して茶屋でだんごでも食べようと思っていたのになぁ…
退屈だ…何か気晴らしになるようなことはないだろうか…
「あ、そうだ。」
茶屋でだんごを食べるより面白いことを思い付いた私は、自室を出るとある場所に向かいスタスタと歩き始めた。
「おい、潮江。いるんだろう?入るからな。」
部屋にいるであろうやつに一言声をかけ、返事は聞かずに障子を開けた。
「お、おい!いきなり開ける馬鹿がいるか!!」
予想通りの反応。
とりあえず、
「いきなりではないだろ?ちゃんと声はかけた。」
と、平然と言い放ってやる。
「ふつう返事を聞いてから開けるだろうが!バカタレ!!」
そりゃごもっとも。私と潮江が逆の立場だったら、間違いなく潮江は生死の淵をさ迷うことになっているだろう。
「チッ…潮江のくせに細かいことうるせぇんだよ…」
「…今のは聞こえなかったことにしといてやる。で、用件は何だ。」
若干苛立ちを見せながらそう言う潮江に、
「…用件なんて別にない…ただ、潮江が……文次郎が欲しくなっただけ。」
上目遣いに言えば、これまた予想通りの反応が返ってくるから面白い。
「な、ななっ 何言ってやがる!!女が言うことじゃないだろ!!」
「文次郎…顔真っ赤。可愛い。あ、違った。キモ可愛い。」
「おい!男に向かって可愛いはないだろ。つか、キモ可愛いって酷くねえか…ったく…お前ホント何しに来たんだよ…。」
呆れたようにそっぽを向く潮江は耳まで赤く色付いていて、何故だか愛おしさが込み上げてくる。
あーあ…ちょっとからかって遊ぼうと思っただけだったのにな。
不覚。
そんなことを思いながら、潮江の前に回り込み、赤い頬に一つ口付ける。
「おまっ…!!」
さっきよりももっと真っ赤になってあたふたする潮江は、とてもいつものギンギン野郎と同一人物とは思えないから面白い。
そしてやっぱり可愛い。
「あははっ面白かった。じゃあね〜純情潮江。」
そう言い残しその場を去った私の顔もヤツに負けないくらい赤かったのは、たぶんバレてないだろう。
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