「ニール・・・・・・。」
刹那が好きだった。俺だけに見せてくれる弱い刹那。愛しそうに俺の名前を呼ぶ刹那。刹那という人間の存在は、俺にとってかけがえのないもので俺のとっての全てと言っても過言じゃなかった。
それを刹那に言うと、必ず殴られるか、照れて口を利いてくれなくなるかのどっちかだから、俺はその言葉を言えなかった。でも、幸せだったんだ。
「ん、どうした?」
珍しく甘えて俺にすり寄ってくる刹那に微笑みかけながら俺はそっと髪に触れる。この髪も肌も全てが俺にとっては愛しい存在だ。でも、失うとしたら?それが恐くて仕方がない。もし、刹那を失ったらって考えたら、俺は恐くて溜まらなかった。
「何処にも…行くな…。」
泣きそうな顔をして、そんな事をいう刹那に俺は驚きの視線を向けた。なんで、突然そんなことを言うのだろう。刹那は俺の事を信じられないのだろうか。
「なんだよ、突然、約束しただろ?世界を変えるって。」
そう、約束したんだ。刹那と、みんなと世界を変えるって。平和になった地球で籍を入れて、一緒に暮らそうって…そう言ったのは……。
「刹那がそう言ったんだぞ?」
遠くも近くもない昔に、そう言ったんだ。この耳が覚えてる。そう、俺の記憶は、全部刹那のもの、刹那の記憶は、俺のものなんだ。だから、もう一つ約束をしたいんだ
刹那、俺は、お前を護り続けるよ。それが、俺の中の、もう一つの約束・・・・・・。
でも、何一つ守れなかった・・・・・・。ごめんな?
【世界中を味方につけて】
刹那は、その端末で残されたメッセージを読んで、小さく息を吐く。ロックオンの最後の声、言葉、それを見るたびに、刹那は四年前のあのときの事を思い出していた。四年前より大きくなった肩を抱き、刹那は、ベットに身を投げ出す。そのとき、端末を机の上に向かって投げるが大きな音を立てて、その端末は床へと落下した。壊れていないか、一瞬不安になったがそれ以上にニールの言葉が頭の中にリフレインして、拾う気が逸れた。
そのとき、こんこん、とドアがノックされる。
返事を待つことなく開けられたドアの先には、自分が一番に想っていた・・・・・・いや、“想っている”人物と同じ顔をした男が立っていた。
「よぉ、刹那、また兄さんのメールを読んでたのか?」
投げ出された端末を拾い上げぴっと電源を付け、中を見る。電気が付けられていない部屋に端末の明かりだけが灯り、ロックオン・・・・・・、ライル・ディランディの顔を明るく照らす。その顔を横目で見ながら刹那は軽く返事を返す。
「あぁ、そうだ。」
ライルはその言葉を聞くと同時に、呆れ混じりに息を吐きながら、刹那に近づいてくる。刹那はライルから視線を逸らし、背を向ける。
ぎし、という音と同時にベットに重みが掛かる。ライルが刹那のベットに乗ったからだ。
「なぜ、のる。」
「お前が泣きそうだから。」
優しい声色で言われて、刹那は一瞬彼を過去のロックオンと勘違いしそうになり唇をきつく結ぶ。その様子を見て、ライルはぽん、と刹那の頭に手を乗せた。
「信頼してたんだな。」
まるで、自分もそうだったと言うように言われて、刹那はその手をぱしっと払う。その刹那の様子にライルは「悪かった。」というように肩を竦め、刹那から視線を外して何もない空間に目を向ける。
「信頼なんか・・・・・・していない。」
「ふぅん、俺は信頼してた。」
ライルは刹那の言葉に興味を示さず、自分の意見を述べる。そのまっすぐとした物言いに刹那が思わず顔を上げた。
「兄弟として、家族として・・・・・・俺は、信じてた。でも、お前は・・・・・・。」
刹那とライルの視線が絡まり、ライルは再び刹那の頭にぽんと手を乗せる。
「愛してたんだろ?兄さんを。」
まるで、栓が抜けたように、刹那の両目から大粒の涙がこぼれ落ちる。その涙は止めどなく流れ、やがてライルの胸元に縋る。
「っ・・・・・・好きだ・・・・・・った、愛していた!!」
「うん、知ってる・・・・・・。」
刹那の身体を優しく抱き締め、顔を色を覗うように問いかける。
「兄さんに・・・・・・逢いたい?」
ライルの問いに、刹那は切願するようにライルの身体を強く抱き締め返し、言葉を漏らす。
「逢・・・・・・いたい・・・・・・。ニールに、逢いたい・・・・・・っ!」
刹那の声にライルは微笑み、刹那の肩を押し、こつんと額を合わせる。まるで、刹那を宥めるかのようにされたその行為に刹那は目を丸くする。
「逢いに行こうか・・・・・・。兄さんに・・・・・・。」