侍Trip

□肆幕
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土方と沖田が着いた時には既に負傷者が沢山居た。

ついでに平隊士の群れの真ん中にいる真っ白い化け物も見つけた。


「何だあれは?」


白いものを見つけた土方は眉を潜め奇怪な物を見る目で平隊士に問うた。


「わかりませんっ…ただ、平の俺達では対処できない奴ではあります」


平隊士は慌てながらも冷静に報告をする。

中々、平としては肝が据わっている。


「そうか。…総司」

「いいですよ」


沖田は土方の考えを読み取ったのか、皆まで聞かずに腰の刀に手をかけた。

そして何時の間にか沖田の纏っている雰囲気は殺気めいたものに変わった。

沖田はにや、と口角をあげ刀を抜き構え地面を蹴り上げて白い化け物へと駆ける。


「はぁっ!」


刀を振り上げ白い化け物に太刀を入れる。

一瞬、入ったかのように思われた刀は弾かれ沖田自身も弾き飛ばされた。


「なっ…!」


弾き飛ばされた事に驚いたのか、全く切れないことに驚いたのか。

どちらでもある事は確かだ。

驚いた顔をしつつもぎりっと歯を噛み締める。

これでも隊長である自分がこんなものを切れないのが少し腹立たしかった。

まさか、そんな筈がある訳ない。そう自分に言い聞かせもう一度刀を振るう。



しかし何度やっても同じ事だった。

何度やっても刀は弾き飛ばされる。

そして今までこちらを見向きもしなかった化け物がうっとうしそうにこちらを振り返る。


「オ前カァ?サッキカラ邪魔シテルノハ」

「喋っ、た…?」

「…何ダ。オ前弱ソウダナァ」

「?…っ!がはっ!」


突然飛んできた鈍い頭の痛みと白い腕。

一瞬では理解できないけど自分が飛ばされていることが解る。

今のは化け物に殴り飛ばされたのか。ずきずきと痛む頭で必死に考える。

この化け物は何なんだ…?


地面に叩き付けられた体は麻痺したかのように動かない。

ただ動くのは目と脳だけ。逃げろと脳が言ってるのに体は動かない。

化け物は沖田の目の前に移動し、口を開けた。


「弱イケド、美味ソウダナ…」


また白い腕が伸びてきた。今度は自分を掴み、持ち上げる。

その手でぎりぎりと締め上げられる。絞まられる度に体は悲鳴をあげ今にも意識が飛びそうだ。


「(私の命もここで終わりですか)」


自分の命の限界が近づいていると感じた。

そう感じると飛ばないように繋げていた意識もどうでも良くなる。


―死など覚悟の上だ。


腹を括り目を閉じ来るはずであろう、一瞬の痛みを待った。





しかし自分に襲ってきたのは痛みじゃなく、耳を劈く悲鳴と自分が地面に落ちた感覚。


「ア゛ア゛ァァァァ!?」


その悲鳴は自分でも理解してないのだろうか。とても驚きが混ざっていた。

悲鳴からして先程の化け物なのだろうか。

ゆっくりと何が起こっているのか確かめる為に目を開く。



そこには腕がなく、血を流し続ける白い化け物と黒い着物の少年だった。



 
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