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□数え切れない程キスをして
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何かが優しく前髪に触れ、丸井は目を開けた。
確かめようと体に力を入れるが、熱で体が重く、思うように動かない。しかも腕一本あげることすら辛いとは…。思っている以上に重傷かもしれないとため息が唇から漏れた。
「…丸井先輩」
聞こえてきた声に信じられない思いで、視線を向ければ、脳内で何度も思い描いた人物がいた。
「…赤也、」
言葉にした途端、深い後悔の念に襲われた。
(…きっとこれはいつもの夢だ。触れたら消える幻…)
いつもあと少しで触ることができる、というところで、目が覚めてしまう。だから名前を呼んだら、この赤也はふっと消えてしまうかもしれない。
"21日まで会いにくるな"
そう告げたのは自分であったにも関わらず、一番その言葉を後悔しているのは紛れもない自分自身だった。
「…先輩?」
心配そうにこちらをのぞき込んでくる幻に、あの日の赤也の姿が重なった。誕生日を一緒に過ごしたい、そう告げられた瞬間、どれらい心が震えたことか。
もし風邪を引いていなかったら、赤也がレギュラー選抜試合を控えていなかったら…今頃二人でケーキを囲んでいた今日があったのかもしれない。
(…あんな、…あんな悲しい顔をさせるつもりじゃなかった…。だけど…)
赤也とって、今年が一番大事な時期だとわかっていながら、見ないふりをすることはどうしてもできなかったのだ。優勝できなかった昨年の思いを晴らして欲しいというエゴなのかもしれない。だけど、誰よりも赤也に優勝を決めてもらいたいと思っていた。そして、同じ想いを一緒にコートで涙を流した仲間たちが抱いていることも知っているからこそ、本当の気持ちなど言えるはずがなかったのだ。だからこそ、
「…夢でも幻でも、今日お前に会えて、すっげー…嬉しい」
(…夢の中でなら、本当のことを言ってもいいかもしれない…)