Short

□i wanna see you
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人には、突然自分でもわからないことをするときがあると思う。





「悪い!俺ちょっと用事思い出したから帰るわ!」
「えっ!ちょっ!丸井先輩っ!?」



赤也のその声を振り切るように駆け出すと、停留所に丁度止まっていたバスに滑り込む。
それと同時に発車したバスの窓から、呆然としたような顔した後輩の姿が見えて、ブン太は思わず”ごめん”のポーズを作った。


(わけわかんなくて、怒ってるだろうな…あいつ)


放課後部活帰りの赤也を捕まえて、マッ○に行こうと誘ったのはブン太の方だった。
疲れてるんスけど…、なんて口を尖らせる後輩を引きずるようにしてここまで歩いてきたのに、突然置いてけぼりにしたのはマズかったかもしれない。

それでもバスを見た瞬間、走り出した足を止めることがどうしても出来なかったのだ。




「…ただ会いたくなった、って言ったら、何て言うんだろうな…」


それはなんとなく想像できて、ふと口元を緩めた。

(たぶん、あいつは…)




下校途中の学生やサラリーマンばかりのバスの中に、機械的な音声が響き渡る。

「次は、〜〜、〜〜です。このバスは終点、金井総合病院行きです」






コンコン…

遠慮がちにノックすれば、中から聞こえた明るい返事にほっと胸を撫で下ろしながら、ブン太は扉を開けた。
真っ赤な夕日に染まった小さな病室に置かれたベッドの上…驚いたようにこちらを見るその人と目が合った。
しかし、すぐにいつものようにやわらかく細められるその瞳。



「ブン太、急にどうしたの?」
「…っ。あ、えーっと…。別に用はねぇんだけど、近くに用事があったから…」


どうしてるかなって、と呟いたブン太に対し、幸村は少し笑ってから、来客用の椅子を出してくれた。

(やべ…。バレバレだったかも…)

この金井総合病院の周りは、駅と少しの住宅があるくらいで、他にこれといって何かがあるわけではない。
ブン太自身もこの辺の地区に関しては知らないことの方が多いくらい、自分の住んでいる場所とはかなり離れている。
そんなところに用事などあるはずもないことくらい、幸村がわからないはずがないのだ。


(…でも、本当のことなんて…言えるかよ…)



ぎゅっと瞑った瞼の裏で、先ほどの幸村がやわらかい笑みを浮かべてこちらを見ていた。



(バスに乗り込んだのも、あんなバレバレな嘘ついてでも会いにきちまったのも全部…)



『ブン太、急にどうしたの?』


そのたまらなく愛しい、その笑顔を見たくなったから、だなんて。








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