OTNER*NOVEL

□02.潰れてしまえ
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嫌いだ。



嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ。







どうしてこんな目に遭わなくちゃならないんだ。

俺が何したって言うんだよ。

もうウンザリだ。もう沢山だ。

こんな奴もういらない。

いらないいらないいらないいらない。

何処かに行ってしまえ。お前なんかがいなければ俺はじぃちゃんたちと一緒に逝けたのに。
お前さえいなければこんなことにはならなかったのに。


嫌だ。お前の住むこの手のひらを今すぐ切り落としてしまいたい。

もう嫌なんだ。本当にもう、嫌なんだよ。

「な、んで。あの人達が何したっていうんだ。」

ギリリと奥歯を噛みしめる。
崩れ落ちて拳を振り上げて地面に打ち付けて。
何度も。何度も。何度も何度も。

手のひらを覆っていたグローブに血が滲んで痛みすら麻痺して感覚なんてなくなってしまっても、胸を渦巻く衝動は消えてなんかくれない。



優しかったんだ。
あの人達は、長旅に疲れてボロボロで、干からびたみたいに地面に倒れて動かなかった俺に手を差し伸べてくれた。
見ず知らずの生き倒れだった俺に温かいスープと柔らかい寝床を用意してくれて。
「大丈夫だよ」と、何度も頭を撫でてくれた穏やかな笑顔を思い出すと、頭の中がぐしゃぐちゃになって胸がどくどくと不規則に脈打つ。
荒んでいて疲れていて、冷たく拒絶する俺のことを受け止めてくれて包み込んでくれて。
そんな風にされたのはいつ振りだったろう?
そんな優しさは久し振りすぎて戸惑う俺の胸に、久し振りにじんわりと温かい気持ちがこみ上げてきたんだ。
涙が溢れて止まらなくてどうしようもなかった。
そんな俺のことも、ぎゅって抱きしめてくれて小さな子供みたいにあやしてくれて、何度も何度も「大丈夫だよ」と。

「もう大丈夫だから、泣かないで」と、言ってくれていたのに。





ごめんなさい。

恩を仇で返すとはこのことだ。

あなた達からもらった優しさを、俺は最悪の形で返してしまった。














広がる炎。荒れた家々とうねる煙。

まとわりつくベトベトした匂いが気持ち悪かった。
木々の焼ける匂いに交じって届くのは、人の焼ける匂い。粘着質な空気がその事実を一層際立たせて俺を追い詰める。






俺ガ死ネバ良カッタノニ。




黒く深い思いが心を苛んで、でもそれは酷く甘美な誘惑に思えた。そうだ。本当に、もうずっと前から思ってた。
そう、そうなれたらどんなによかったか。






この手の紋章が憎かった。

憎くて憎くてどうしようもなくて、こんなものさえなければと何度も何度も思ったけど。







違うんだ。

本当はそうじゃなくて。




俺が。



いなければよかったんだと。煙を吸って薄れゆく意識のなかでそう思った。





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