OTNER*NOVEL

□追いかけっこ
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「なんか、いつもと同じようにおチビと話してたらさ、コイツ急に怒り出して。」

「急にじゃないっス。てか不二先輩、別に聞いてくれなくていーんでその人引き渡してくれません?」

「それはダメ。英二、それで?」

「俺が「何怒ってんだよ」って言ったら、コイツってば「お願いがあるんですけど」とか殊勝に言ってきてさ。何だよおチビにもカワイイとこあんじゃん!って思って「いーよぉ、言ってみ。」って答えたんだけど……っ。」

事もあろうにコイツってば!!と顔を赤くしながら英二は僕の耳元でその「お願い」とやらの内容をごく小さな声で聞かせてくれた。

「って言うんだぜ!?も、駄目。無理。絶対言わない!!」

「………ねぇ、それは惚気?」

「ちっがぁぁぁぁああう!!俺本気で困ってるんだって!だっておチビってばしつこいんだもん!俺はイヤだって言ってるのに言うまで許さないとかゆーしさぁ」

 それで逃げたら追いかけてきた、って・・・。


「英二、頑張っておいで。」


僕はなんだかどうでもよくなって、彼の肩をポンッと叩いて越前の方へと押し出す。

「ちょ、不二・・・っっ」

「ありがとうございます、不二センパイ。」

2つ年下の後輩の口元が、不敵に笑んだのを皮切りに、再び彼らの追いかけっこが始まった。


「不二の馬鹿ぁぁぁあああっ裏切りものぉぉぉおお!!!」


非常に不本意な叫びが廊下に木霊して行ったけれど、本当にもう、どうでもいい気持でそれを聞いていた。


人の恋路を邪魔するものは馬に蹴られてなんとやら、だ。
まぁ恋路がどうこうというよりも、彼らの馬鹿ップルぶりに辟易してしまったというのが本音だけれど。


「大体、いつも誰にでも言ってる言葉なんだから変に恥ずかしがらずに言えばいいんだよ。」

人通りのまばらな廊下で溜息混じりに呟いた一言は、誰の耳に届くこともなかった。




”好き”って言って欲しいだなんて、全く。君の恋人は意外と可愛いことをねだるんだね。



普段、自信たっぷりで大人ぶってる彼の意外な一面になんだか微笑ましく思いつつ、僕は当初の目的通り下駄箱へと向かう。

明日菊丸と顔を合わせたときに機嫌を治してもらえるよう、彼の好きなお菓子をいくつか買って帰ろう。
そのときに、あわよくば今回の事の顛末を聞き出そうなんて考えながら帰途つく。


ふと。昇降口に差し掛かったところで、遠くから聞こえてきた声に耳を澄ます。



「菊丸先輩、いい加減観念してクダサイ。」

「嫌だ。」

「往生際悪いっスよ。」

「そっちこそしつこい!」

「先輩がなかなか折れないからじゃないっスか。」

「お前が折れればいーだろ!?」

「……言ってくだサイ。」


「絶っっ対言わない!!!」




昇降口を出て校門へ向かう道の最後まで、必死な叫びと悲痛な叫びが校内に響き渡っていた。







了。


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